214.ヤルクダンジョン
「だいぶ暖かいな、これ」
ライル商会が作ってくれた防寒具は、雪原エリアに入ってから大活躍だった。
「ほんとにそうね。動きやすいし、さすがライルくんね」
俺達は雑談をしながら、ブリザードウルフの群れと戦っている。
寒ささえなければ、何ともないモンスターだ。
地下53階までは本当に順調だった。
前回と違い、ゴーレさんがついて来ているのはデカい。
レベル以上の戦闘力だし、俺達と合わせるのが本当にうまかった。
ライムもこまごましたモンスターを一気に倒してくれるからだいぶ助けられた。
雪原エリアに入ってからは動きが鈍くなっているから、寒さは苦手なのだろう。
レオの存在も大きかった。
俺が先日テイムしたレオは、いつも子犬サイズなのに戦闘になるとスキルを使用し、俺達4人が乗っても平気なサイズまで大きくなり、身体が炎のライオンになり暴れまわった。
「リーダー!階段あったよー」
「おう、そうか。あと2階だ。気合入れていこう」
俺達は階段を下り、地下54階層に向かった。
▽ ▽ ▽
地下54階層にはアイスドラゴンの群れだった。
ライドンと同じぐらいのサイズが100体ほどいた。
「ブリザードドラゴンの前に下位種がくるのか」
「さすがにちょっと大変そうね。クララ、あれ出しておく?」
「いらなーい!」
「わかったわ」
俺達はアイスドラゴンの群れに突っ込んでいった。
俺はインベントリから島砕を取り出し魔力を込めると、島砕の刃が出てくる。
俺はそれを振り回し、アイスドラゴンの首を刎ね飛ばしていった。
「そんなに強くないから落ちついて倒していくぞ」
「「はーい」」
数分後、俺達はアイスドラゴンを殲滅した。
「少し休憩したら、下に降りるから。休めるときに休んでおけ」
「「はーい」」
「ゴーレさん。ボスについてだが、俺達だけにやらせてくれないか?」
「問題ありません。下層に進むにつれて、自分の力不足を感じました。ですのでサポートに回らせていただきます」
「ありがとう。ライムとレオの事よろしく」
「承知致しました」
俺達は休憩を済ませ、最下層に向かった。
▽ ▽ ▽
私は目の前の光景に驚愕していた。
疾風の斧について行きダンジョンを攻略していて、ヒューズ殿達との力の差をとても感じた。
だが、追いつけない差ではないと感じていた。
だがそれは勘違いだった。
いままで疾風の斧は一度も本気を出していなかったようだ。
むしろ今も本気を出しているのか、私にはわからなかった。
最下層に到着し、現れたブリザードドラゴン。
私はブリザードドラゴンの咆哮に気圧されてしまった。
そばにいるライムとレオは気にせずすやすやしていた。
ヒューズ殿はブリザードドラゴンに突っ込んでいく。
愛用の島砕をブリザードドラゴンに投げた。いつもの形とは違って両斧になっていた島砕は、弧を描いてブリザードドラゴンに飛んでいく。
ブリザードドラゴンは島砕を避けた瞬間、うめき始めた。
なぜかヒューズ殿がブリザードドラゴンの首に島砕を刺していた。
いつの間にあんなところに移動していたのか。
クララ殿はリリアン殿に出してもらっていた、見たことのない形状で大きな弓を4つ取り出した。
クララ殿が目をつぶると、4つの大きな弓は宙に浮かんでブリザードドラゴンへ向かって行く。
大きな弓はブリザードドラゴンを囲むと一斉に矢を放った。
2つは羽根に刺さり、ブリザードドラゴンは地面に固定された。
もう2つは脚をえぐっていった。
クララ殿の矢での攻撃はまだまだ続いた。
ギャアアアアア!
ブリザードドラゴンが叫び、固定された矢を抜いたがもう羽根はボロボロになっていた。
「おい!リリアン!ブレス来るぞ」
「わかってるわ。ファイアボール」
リリアン殿の目の前に火の玉が現れた。
その火の玉は、弟子達の火の玉よりもはるかに小さいものだった。
ギャアアアアア!!
ブリザードドラゴンがブレスを吐こうとした瞬間、リリアン殿はその小さい火の玉を飛ばした。
ゆっくり飛んでいく火の玉がブリザードドラゴンに近づくにつれ、数が増えて大きさも大きくなっていった。
大量の火の玉はブレスを掻き消し、ブリザードドラゴンに当たる。
大量の水蒸気が発生している。
水蒸気が晴れると、ブリザードドラゴンの姿はなかった。
「ゴーレさん。ダンジョンコア見つけたから、ライルに伝えてくれ」
「承知致しました」
追い付けないかもしれない。差が縮まらないかもしれない。
それでも私はマスターのために疾風の斧のように強くなろうと決意した。
▽ ▽ ▽
アカに起こされた俺は、秘密の通路を繋ぎ最下層に行った。
「うわ。さむい!」
「マスター、こちらです」
ゴーレが呼ぶ方に行くと、ぴんぴんしている疾風の斧も居た。
「攻略できたんですね」
「まあな。だいぶめんどかったけど」
「じゃあちょっと寒いので、すぐにコアをいじっちゃいますね」
「頼んだ」
俺とゴーレはダンジョンコアに触れ、マスター登録をしようとした。
するとディスプレイに[マスターを変更すると、ダンジョンが弱体化しますがよろしいですか?]と表示された。
「え?なにこれ」
「おそらくですが、この階層の多さとブリザードドラゴンがボスだったことを考えると、秘密基地の魔力と大量発生の卵の魔力を吸収してイレギュラーに成長したダンジョンなんだと思います」
「じゃあ最大に恩恵は受けられないけど少しならって感じかな?これでレベル1のダンジョンになったらへこむなー」
「可能性はあります。階層も減る可能性もあります」
「まあやってみないとな」
俺はマスター登録をした。
設定画面を見てみた。
[名前未設定(ダンジョンレベル5)]になっていた。
「マスター、階層が減っています」
「え?まじ?」
「地下50階層までです」
「少し減ったな。とりあえずこの階を草原エリアにしよう」
俺はディスプレイをいじって、草原エリアに変えた。
「ちょっとだけいじって終わらせるか」
ヤルクダンジョン(ダンジョンレベル5)
スタンピード自動阻止・ダンジョン外モンスター消滅
「じゃあみなさん、帰りましょう」
「おう!すぐに温泉入るぞ」
「私もすぐに入りたいわ」
「私も入る―!」
俺達はダンジョンをあとにした。




