205.ヒューズのテイム
俺はクララさんに連れられて疾風の斧の家に来た。
「ヒューズさん。テイム取得ってどうしたんですか?」
ヒューズさんは呆れた様子で俺とクララさんを見る。
「わざわざ忙しいライルを呼んでくるなよ」
「だってー大ニュースだよ?」
「そうだが」
「『テイム』はいつ取得したんですか?」
「わからん。この村に来てから初めてステータスを見た」
「え?」
「冒険者をそれなりにやってると、大きな変化を感じない限りステータスなんか見ないんだよ」
「嘘言わないの。見る人は見るし見ない人は見ないのよ。単純に性格でしょ?」
ヒューズさんはちょっとばつの悪そうな顔をしている。
「うるさいな」
「なんか取得した理由に思い当たることありますか?」
「あるだろ。ここで暮らしてんだ」
「ん?」
「こんなモンスターが多い村で生活してるんだ。コミニケーションだってとるし、お前達のテイムモンスターはなぜか俺達に懐いてくれてる。あとダンジョンでライムとずっと一緒だったのがデカいと思う」
「なるほど」
「まあ『テイム』を取得したところで今までとなんも変わらないからな」
「ん?変えますよ?」
「ん?」
俺はバッグから黄色の卵を取り出した。
「まさかこれを?」
「そうです。トサカのところにもっていきますよ」
俺はヒューズさんを掴み、鶏舎へ引っ張って行った。
▽ ▽ ▽
俺達はトサカに黄色の卵を預けた。
帰り道、ヒューズさんが心配そうに聞いてきた。
「拾った卵で、秘密基地内で生まれたのってラーちゃんとライムだっけか?」
「そうですね」
「あーあの卵から孵るのもあのレベルのモンスターか」
「うーん。可能性はありますね」
「はあー」
ヒューズさんはため息をついた。
「どうしたんですか?」
「俺もお前に影響されてると思うと悲しくなってきた」
「ん?悪口ですか?」
「そうだな。悪意しかないな」
「卵が孵化する前にうちのオールスターと模擬戦します?死ぬ気でやれば怪我くらいはさせられると思うので」
「オールスターと戦ったらさすがに死ぬわ」
「じゃあ発言には気をつけてくださいね」
「うるせぇな。わかったよ」
▽ ▽ ▽
卵をトサカに預けてから2日後。
思ったより早くトサカに呼び出された。
卵が孵化しそうとのことだ。
盗賊が持っている段階で孵化間近だったのだろう。
「これ、孵化したらどうすればいいんだ?」
ヒューズさんは初めてのテイム作業にそわそわしてる。
「テイムって唱えれば行けますよ。モンスターに触りながら言うと画になります」
「俺で遊ぶな」
さすがに悪ふざけはばれた。
パリッパリッ
卵にひびが入った。
「そろそろですよ」
「お、おう」
パリッ
殻が壊れ始めた。
パリッパリッ
卵は完全に割れ、中から黄色とほんのり赤のたてがみがある小さなライオンが出てきた。
「ヒューズさん!」
「おう。テイム!」
「どうです?ステータス見てみてください」
ヒューズさんはステータスを確認した。
「多分できたみたいだ。おい。こいつすごいぞ」
「え?」
ヒューズさんがライオンのモンスターのステータスを見せてくれた。
【名前】
【種族】 インフェルノラーライオン
【レベル】 45
【生命力】 6009
【魔力】3111
【筋力】 1944
【防御力】 1811
【俊敏力】 510
【スキル】
○通常スキル
火魔法LV3
→フレイムボム LV4
→フレイムウォール LV4
→デスインフェルノLV3
聖魔法
→ヒールLV5
→エクストラヒールLV1
閃光
成獣化
炎獣化
炎獣王の咆哮
炎獣王の鼓吹
「うわ。最強のやつ。小さい男の子も大きい男の子も憧れるやつ」
「何言ってんだ?」
「すみません。名前は何にするんですか?」
「なんか案ないか?」
「え?」
「せっかくだし、かっこいい名前にしてあげたいんだよ」
ヒューズさんは照れていた。
「まあライオンにはこの名前ってやつありますよ」
「なんだ?」
「レオ」
「いいな。お前はレオだ」
ヒューズさんはレオを持ち上げた。
レオはあのステータスとは思えないほどかわいいフォルムだった。
心なしかヒューズさんがデレデレしているように見えた。
▽ ▽ ▽
レオのテイムを終えて、俺とヒューズさん達はマデリンのもとに向かった。
鍛冶屋に到着すると、すでに何人か来ていた。
ガルスタン・マデリン・母さん・アリソン・ゴーレ・シモン・キリ―・リリアンさん・クララさん。
「すみませんお待たせしました」
俺がお詫びをすると、クララさんの目がヒューズさんの肩に乗ってるレオに気付いた。
「リーダーその子が生まれたの?」
「そうだ。あとで抱かせてやるから今は本題を進めるぞ」
「はーい」
クララさんは少し残念そうだった。
「それで、防寒着が出来上がったんですよね」
「できました。これです」
マデリンは疾風の斧に出来上がった防寒着を渡した。
「着てみてください。最後の調整をしますので」
疾風の斧は防寒着を着てみた。
「その服は要望通りの機能をつけてます。今の段階でだいぶ暖かいと思うのですが、ものすごく寒いところの場合は魔力を少しこめてください。そうすると今よりもだいぶ暖かくなります」
「うお!ここじゃ暑すぎるくらいだ。これがあれば攻略できるぞ」
「そうね。魔力の消費も少ないし最高の服だわ」
「この被る部分もいいね」
「フード良いですよね」
「防御力もそこそこありますし、破れたぐらいじゃ機能無くなりません」
「ありがとうなライル。それにみんなも」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
3人は頭を下げた。
「そのベンチコートを作るついでに機能が少しついた靴下も作っておきました」
「うおー助かる!」
「これでダンジョンクリアできそうですね」
「疾風の斧のみなさん。じゃあ最終調整しますから動かないでくださいね」
母さんとアリソンとシモンとキリ―が最終調整し始めた。
するとなぜかゴーレも防寒着を着ている。
「あれ?ゴーレ?」
「マスター。私もダンジョンに行きたいのですが」
「あれ?サイズぴったりの防寒着があるってことは、あえて俺だけに報告を遅らせた?」
「はい」
「ゴーレ。やり方が俺に似てきた?」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ。別に行くのは反対しないから、言って欲しかったなー」
なんか最近ゴーレの人間味が増していて、俺は少しうれしかった。
「自分にあのダンジョンはまだ早いと思ったので、止められてしまうかと思ってしまいました」
「まあゴーレいないと大変だけど、そこらへんは融通利かすから今度から言ってね」
「はい。申し訳ありません。ちゃんとした理由もあるのです」
「ん?ちゃんとした理由?」
「疾風の斧がダンジョンを攻略して村に帰ってくると、多分ですがボスがリスポーンしていると思うのです」
「あっ!考えてなかった」
「ですので私がついて行って、攻略したのを他のゴーレムに伝えてもらえば、秘密の通路を使ってスムーズにダンジョンコアの設定ができると思いました」
「いや、完全に忘れてたよ。さすがゴーレ。ヒューズさん、ゴーレをお願いしますね」
「おう」
ゴーレも防寒具の最終調整を始めた。
「ヒューズさん。いつ出発しますか?」
「明日にでも行こうと思う」
「わかりました」
「その間にやれることを進めておきます」
全員の最終調整が終わり、明日疾風の斧がダンジョンに再挑戦することが決まった。




