185.ハーマンチーム
私の目の前は地獄だった。
「トサカ!ルビー!やり過ぎだって!」
私がテイムしているトサカとルビーが大量発生したゴブリンとコボルトを蹂躙している。
強いのは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
バラバラになるゴブリンとコボルト。
私の目の前で吹き飛んでいく上位種。
これは地獄だ。
この2体だけなら私にも手綱を引くことができた。
「うわ!」
足元にオークの首が飛んできた。
目の前ではゴブリンとコボルトを蹂躙するトサカとルビー。
そして私の後ろでは、オークを蹂躙するラーちゃん。
何でこんなことになったのだろうか。
その原因は大剣を振り回しているゴーレさんだ。
なぜかウキウキしているように感じる。
ゴーレさんが無駄を省くためと言って、一カ所に大量発生したモンスターを誘導してきた。
テイムモンスター達は楽しそうに蹂躙している。
なんで私一人なんですか?
助けて、ライル様。
▽ ▽ ▽
だいぶ一方的なモンスターの大戦争が終わり、みんなで魔石を集めていた。
「ゴーレさん。これだけ倒したんですから、そろそろ帰りますよね?」
「まだです。マスターが私に特訓を科してくれることなんてありません。こんな貴重な機会をこれで終わらせることはできませんよ」
いままでゴーレさんの忠誠心には脱帽していたが、忠誠心がここまでゴーレさんをおかしくさせるなんて見たくなかった。
「ちょっと疲れてしまったんで、少し休憩しませんか?」
「ルビーに乗れば、疲れず移動できますよ」
ブモォ――!
ルビーもやる気満々みたいだ。
「はぁー」
私はルビーに諦めて乗って移動をした。
▽ ▽ ▽
大量発生を6つ潰したあたりで、不可解なモンスターに出会った。
倒しても死体が残らないモンスターだった。
最初はみんなが強すぎて、跡形もなくなったのかと思った。
「ゴーレさん。あれは一体?」
「私にもわかりません。マスターと何回かこの現象に出くわしております。何か原因が分かるかもしれないので、このまま森の奥に進みましょう」
「え?ライル様に報告しなくていいんですか?」
「いえ、原因を突き止めてから報告をいたしましょう」
「わ、わかりました」
まさかライル様からの初めての特訓で、ゴーレさんがこんなになるなんて。
普通なら報告に言っているはずなんだけどな。
私はやる気の満々のみんなとゴーレさんを止めることができず、森の奥に進んでいくことになった。
▽ ▽ ▽
森の奥に行くと、周りの風景に合わない洞窟があった。
「ゴーレさん。これは一体」
「私も情報でしか知らないのですが、ダンジョンというものだと思います」
「え!!ダンジョン?あの?」
私でもダンジョンぐらいは知っていた。
「何個か冒険者が攻略を目指しているダンジョンがあるとは聞いたことがありますが、なぜこんなところに?」
「わかりません。ですが、入ってみればわかるかもしれません」
「え?入るんですか?」
「はい」
「ライル様に報告した方がいいと思いますが」
「いえ、中の状況を確認してからでいいと思います」
ゴーレさんの表情のない顔からメラメラとしたやる気がなぜか感じられた。
「ではみなさん行きますよ」
私とゴーレさんとテイムモンスター達は洞窟に入って行った。
▽ ▽ ▽
洞窟の中はすごかった。
見た目以上に広く、ルビーに乗っていなかったらバテていただろう。
そして大量発生程ではないが、多くのモンスターがいた。
1階はゴブリン。
地下1階はコボルト。
地下2階はスライム。
地下3階はロックトータス。
地下4階はオーガ。
そして今いる地下5階。
他の階層よりだいぶ狭いが、部屋の中央に翼がない大きなドラゴンが1匹いた。
ライドンよりも全然大きい。
「あれは?」
「わかりませんが、今までのモンスターより強いと思います」
「どうします?」
「倒します」
「わ、わかりました」
ゴーレさんの意志を聞き、翼のないドラゴンに目をやると奥で何かが光っていた。
目を凝らしてみてみると、球体の水晶が宙に浮かんで光っていた。
「あれはもしかして」
「ダンジョンの核だと思います。やはりあのモンスターがこのダンジョンのボス」
「ライル様に報告に行きませんか?」
「いえ、倒してしまいましょう。あの核と私が同期できるかもしれません。そうすればマスターのお役にもっと立てるはずです」
「わかりました。気をつけてくださいよ」
「ハーマンさんは後ろに下がっててください」
「は、はい」
私はルビーから降りて、後ろへ行った。
トサカとルビーに気をつけるように伝えないとと思い、振り返った瞬間。
ラーちゃんの魔法が翼のないドラゴンに当たり、姿が消えていた。
「え?」
そして私とゴーレさんは気付いてしまった。
その攻撃で、ダンジョンの核が壊れてしまったことを。
「ゴーレさん。一緒にライル様に謝るので回収して報告に行きましょう」
「はい。申し訳ありません」
私とゴーレさんはダンジョンの核と、ドロップアイテムを回収してダンジョンを出た。
ダンジョンから核を出した瞬間、ダンジョンは音も立てずに消えて行った。
「あっ!」
「大丈夫です。一緒に謝りますので」
私達は村に戻ることにした。
▽ ▽ ▽
「ということでございます。申し訳ありません」
「申し訳ありません」
ハーマンとゴーレは謝り続けた。
「ははは!ゴーレもこんな風になることがあるんだね」
俺はゴーレの人間味がうれしくなった。
「「本当に申し訳ありません」」
「気にしなくていいよ。ニーナ達もダンジョン見つけたらしいから、そっちを明日調査しようと思う。それに、ダンジョンでやっちゃいけないことも分かったし、逆に成果だよ」
「「ありがとうございます」」
「でもゴーレ。俺はゴーレに人間味が出てくるのはすごいうれしいんだけど、ハーマンの忠告をちゃんと聞かなかったのは良くないぞ。冷静で客観的に物事を見れるのがゴーレの良さなんだから」
ゴーレは申し訳なさそうに頭を下げた。
「まあ怒ってないし、失敗じゃないから。もう謝るのはなしね!」
「「はい。ありがとうございます」」
「ゴーレはハーマンにお礼ね」
ゴーレはハーマンの方を向き、頭を下げた。
「ハーマン殿、今回は大変申し訳ありませんでした。今後ともいろいろとご指導していただきたいです」
「いやいや!ご指導なんて。ただ、チームのメンバーとして話し合うことが必要だったかもしれませんね」
「はい。今後の教訓に致します」
ゴーレが疾風の斧以外の人間に殿とつけていた。
ハーマンとゴーレが仲良くなれるかもしれないと思い俺は少しうれしくなった。
「よし。皆がそろそろ帰ってくるから、結果発表の準備手伝って!」
「「はい」」
俺達はみんなと合流するために、学び舎へ向かった。




