183.ビッツチーム
シュッシュッ
カシムさんが放った矢がコボルトの頭に刺さる。
「シャル、ゾーイ残りを頼む!」
「わかった、お兄ちゃん」
「任せてください!」
シャルさんとゾーイさんは周辺のコボルトをなぎ倒していく。
カシムさんは私に向かって口を開いた。
「ナーリアさん!こんな感じでニーナは指示出してるからやってみて」
「わ、わかりました」
▽ ▽ ▽
「えーゾーイさん右にコボルト数匹が展開しています。そっちの処理をお願いします」
「うん!」
ゾーイさんは展開しているコボルトに走って向かって行った
「カシムさんとシャルさんはそのまま正面のコボルト達の殲滅をお願いします」
「任せて!インクリーシングアロー!」
「うん!くらえ、エレキボール!」
シュッシュッ
カシムさんが放った矢は2本から6本に増え、次々とコボルトに刺さる。
シャルさんのエレキボールも広範囲にダメージを与えていた。
「ライム様は、ゾーイさんの回復をお願いします」
ポニョポニョ
ライム様は私の頭から降り、ゾーイさんのもとへ向かって行った。
20匹ほどのコボルトはすぐに殲滅ができた。
見たところ大きなけがをしている人もいなかったので、私は安心した。
「みなさん、問題ありませんでしたか?」
私はみんなのもとへ駆け寄った。
するとカシムさんが叫んだ。
「ナーリアさん!離れて!」
カシムさんが私を突き飛ばすと、私がいた場所にコボルトの鋭い爪があった。
「え?」
「ナーリアさん。大量発生は20匹じゃすまないから。気を抜いちゃだめだよ!」
「ご、ごめんなさい!」
私は何をしているんだろう。大量発生が数百単位で起こるのなんてわかっていたのに。
慣れない指示出しで、完全に頭から離れていた。
「ゾーイさん!シャル!急いでナーリアさんの周りのコボルトの排除!他のコボルトは俺が引き付けるから」
カシムさんがみんなに指示を出した。
私の周りにいるコボルト達をシャルさんとゾーイさんが倒していく。
私は何もできずに見ているだけだった。
▽ ▽ ▽
100匹近いコボルトと上位種をカシムさんたちはあっさり倒した。
私は何もできずにいた。
ミスをした私が指揮をとってももいいのか、またミスをしてしまうんではないか。
私はそのことを考えてしまい、戦闘が終わるまで動くことができなかった。
戦闘を終えたカシムさんが私のもとへやってきた。
「ナーリアさん。大丈夫?」
「は、はい。本当にすみません」
「気にしなくていいよ。まだ慣れてないだけだと思うよ。次頑張ろうよ」
「は、はい。すみません」
「とりあえず、剥ぎ取り終わったら話し合いをしようか」
「そうですね。敵をヘイトを買う役割がいないとこんなに大変だとは思いませんでした」
「最後のほうはお兄ちゃんも前線で戦ってたもんね」
「これはちゃんと話し合わないとだめかもな。ビッツも倒させる余裕もなかったしな。とりあえず剥ぎ取りを始めよう」
「「うん」」
「はい」
「は、はい」
私達は大量のコボルトの剥ぎ取りに向かった。
▽ ▽ ▽
「で、どうしようか」
「そうですね。このチームだと私とシャルさんが機動力を生かして殲滅していくしかないかと」
「お兄ちゃんは弓でフォロー中心だね」
「うーん。なんかもっといい案があると思うんだけどな」
先ほどの戦闘を踏まえて話し合いが始まった。
私は何も言うことができかった。
エルフの村にいたときは戦闘で劣ることなんてなかった。
エルフ狩りには負けてしまい奴隷になってしまったが、モンスター相手なら楽勝だと思っていた。
この前のライル様の特訓までは。
なんで私よりも年下の人たちができることが私はできないんだろう。
どうにかしなきゃ。どうにかしなきゃ。
「ナーリアさん!ナーリアさん!」
「は、はい!」
私はカシムさんに声をかけられていることに気付いていなかった。
「ナーリアさんはどう思った?」
「私なんかの考えではとても」
「「「そんなことないよ!」」」
カシムさん・シャルさん・ゾーイさんが声を合わせて言った。
「え?」
「そんなことないよ。皆が答えを知ってるわけじゃないんだから」
「そうだよ。俺が考え付かないことをナーリアさんが考えられるかもしれないじゃん」
「同じ意見だとしても良いんですよ。話し合って私達の最良の答えを見つけるんだよ」
「だからナーリアさん。思い付いた事があったら言ってみてよ。ビッツもね!」
「うん!」
私の意見なんかが本当に必要なのだろうか。
いや、みなさんも言ってくれている。
駄目な意見でも出さないと、私変われない。
変わって、ライル様のために働くんだ。エルフのみんなを守るんだ。
「あの、ヘイトを買う役目が居なくて一番不便なことはなんですか?」
私は1歩踏み出してみた。
▽ ▽ ▽
私達の目の前にはゴブリンの群れがいた。
「ではさっき言ったようにやってみましょう」
「「うん!」」
「「わかった!」」
みなさんがゴブリンの群れに向かって走って行った。
「ストーンウォール!ストーンウォール!ストーンウォール!」
私は土の壁を出し、ゴブリンの群れを2等分にした。
右の群れにはカシムさん。左の群れにはシャルさんが向かった。
「カシムさん!シャルさん!距離を取って、攻撃し続けてください!」
「「わかった!」」
カシムさんは弓と魔法で、シャルさんは投槍と魔法でゴブリンを倒していく。
ゴブリンは1方向からしか来ないので、次々と倒していった。
しかし数が多いせいかジリジリと距離が詰められていく。
「カシムさん、シャルさん!そのまま攻撃し続けて!」
「「うん!」」
「私がヘイトを買います!アイビースネーク!リーフピジョン!」
足元に蔦でできた蛇と草でできた鳩が現れ、左右に分かれてゴブリンに向かって行く。
「ゾーイさん!」
「補助スキル、グローアップ!」
ゾーイさんの補助スキルがアイビースネークとリーフピジョンに当たる。
アイビースネークは大蛇のサイズになり、リーフピジョンは3倍近くのサイズになった。
「よし!行けー!」
アイビースネークは左のゴブリンの群れに突っ込み、ゴブリン達を噛み砕いていく。
リーフピジョンは葉っぱの羽でゴブリン達を切り刻んでいく。
「カシムさん、シャルさん!攻撃はそのままで。ゾーイさんは打ち損じてこっちに向かってくるゴブリンの対処を」
「「「わかった」」」
カシムさん達は攻撃を続けた。
▽ ▽ ▽
「ナーリアさん!すごいよかったよ」
カシムさんがすごいテンションで褒めてくれた。
「ありがとうございます!」
「ほんとにいい作戦だったしいい指示だったねー」
「うん。安全でスムーズにゴブリンを殲滅できましたし、上位種もアイビースネーク達がヘイトを買ってくれたおかげですぐ倒せましたね」
「俺も10匹倒せたよ!ありがとうナーリアさん」
「いえいえ、みなさんのおかげです」
できた。私にも。
ここで頑張れば、私も変われるかもしれない。
頑張ろう。この特訓で変わってやる。
私は自分自身に喝を入れ、気合を入れ直した。
「ナーリアさん!早くしないと置いていくよー」
「は、はい!すぐ行きます!」
私達は次の大量発生を探しに森へ向かった。




