169.チャールズのパン
俺は学び舎で授業を見届け、チャールズ兄の家へ行った。
「ちょっと待ってて、今日の朝焼いたやつがあるから食べてみて」
チャールズ兄はパンを1つ、俺の前に出した。
見た目は完全にロールパンだった。
掴むと今までのパンのような硬さがない。
「え?柔らかい」
「食べてみて、食べてみて」
俺はそのパンを口に入れた。
「パン!これパンだよ!」
「ライル師匠、何言ってんの?パンだよ」
「今までのパンと全然違う。これこそパンだよ」
「まだ改良はするけど、お店に出せるかな?」
「これは出せる。明日すぐスキルでパン屋作るね」
「本当?」
「でもよく酵母を作れたね」
「スキルのおかげだと思う。リンゴがなんとなく教えてくれた」
「育てるだけのスキルじゃなかったんだね」
「違う果物でも酵母が作れるか試してみようと思う」
「いいね。それじゃ俺が食べてみたいパンのアイディアをチャールズ兄に教えておこうかな」
「ほんと?教えて」
俺は食パン・コッペパン・クロワッサン・バケット・ジャムパンなどいろいろ前世の記憶をアイディアとして話した。
「すごい!出来るかわかんないけど、挑戦してみるね」
チャールズ兄は嬉しそうに言った。
「そういえばガートンさんとダリナさんってもういる?」
「まだ畑だと思うけど」
「呼んできてもらえる?」
「わかった」
チャールズ兄は畑へ両親を呼びに行った。
数分すると、チャールズ兄とガートンさんとダリナさんがやってきた。
「ガートンさん、ダリナさん、お邪魔してます」
「いらっしゃいライルくん。なんか用事があると聞いたんだけど、サウナの時のことかい?」
「あなた、サウナ時のことってなに」
ダリナさんはガートンさんを問い詰めた。
「サウナでガートン家の皆さんをライル商会で雇いたいって話をしたんです」
「そんな、あなた!ライルくんにはいろいろお世話になってるのに、なんでそんな迷惑をかけるようなことを言うの?」
ダリナさんはガートンさんを殴り始めた。
俺はダリナさんを止めるために、口を開いた。
「ダリナさん、僕が雇いたいって言ったんです!だから全然迷惑じゃないですよ」
「え?本当に?」
「はい」
ダリナさんは納得してくれたようだ。
「話を戻しますが、ガートンさんとダリナさんにチャールズ兄が始めるパン屋の手伝いをして欲しいんです。朝焼いたパンは食べましたか?」
「食べた。あんなうまいパンは初めて食べた」
「私も。さすがライル商会の小麦粉って思ったわ」
「小麦粉の効果もありますけど、美味しかったのはチャールズ兄の努力とスキルのおかげです」
「え?」
「チャールズ兄は作物を調理する時、作物の声が聞こえるそうです。そのおかげであのパンはできました。
そして、今後もいろいろなパンを作ってもらうつもりです。そのためにお二人にサポートをして欲しいと思ってます」
「チャールズ、お前そんなに頑張ってたのか。わかった。ライルくん、手伝わせてくれ」
「お願いします」
「こちらこそお願いします」
ガートンさんとダリナさんを雇うことになった。
「お二人が何が出来るのか知りたいのですが、文字の読み書きと算術はできますよね?」
「できるぞ。まだ村が栄えている頃は、ライルくんのおじいちゃんにも負けない小麦を作っていた。その頃は商人とのやりとりも多かったから自然に覚えてしまったよ」
「なるほど、エクストラスキルを教えていただくことはできますか?」
2人は頷いた。
「私は『穀物の識者』と言って穀物の生産力が上がるスキルだ。それでダリナは『生産人』という生産力をあげるスキルだ」
「私のスキルは平凡だから、生産力を上げると言っても少しだけなんだけどね」
「なるほど、わかりました」
俺は2人に可能性を話した。
「チャールズ兄の『植物の友』も正直料理に使えるとは思ってなかったです。ですが使えました。ガートンさんの『穀物の識者』も、ダリナさんの『生産人』も料理やパン作りに使えるかもしれません。なので2人にはチャールズ兄にパン作りを教わり、昼はパンを作る練習、夜はブライズさんのところで料理を作る練習をしてください。出来るだけエクストラスキルを使うイメージを持ちながら」
「「わかったよ」」
「今後の予定はこれで大丈夫ですね。明日、パン屋とガートン家を作ります。引越しの準備だけしておいてください」
「わかった」
「じゃあ俺は帰りますね。チャールズ兄、酵母の作り方とパンの作り方をしっかり教えてね。ジャムの作り方は今度一緒にやろう」
「はい!」
俺はガートン家を出た。
「よし、これでパン屋はいけるぞ」
俺はガッツポーズをした。




