143.曖昧酵母
「え?」
チャールズ兄はいきなりのことで驚いてる。
「農家も冒険者もやめて、ライル商会で働くってこと?」
チャールズ兄は冒険者に魅力を感じているようでやめたくないようだ。
「いや、続けながらかな」
「え?」
「俺もそろそろ美味しいパンが食べたいってこと。パンの研究して出来上がったものを売るってなったら、うちの商会に入ってもらった方が楽なんだよね」
「やる!絶対やる!」
「冒険者・訓練・料理・パン作りってとっても大変だと思うけど、チャールズ兄ならやれると判断して誘ってる。どれも疎かにしないでできる?」
「やるよ!最強のパン屋冒険者になる」
「そのネーミングはダサいけどね」
誰かが俺の袖を引っ張ってきた。
「ん?」
引っ張ってるのはドリーだった。
「デキタヨー!」
手には小麦を数本持っていた。
「ん?どういうこと?」
「ヒンシュカイリョー!シタヨー!」
「早いな。頑張ってくれたんだなありがとね」
俺小麦を受け取った。
「鑑定」
○小麦
ライル商会産の小麦。最高品質。
○小麦
ライル商会産の小麦。最高品質。
「何が違うんだ?俺の鑑定しょぼすぎ」
するとチャールズ兄が小麦を手に取った。
「こっちのはすごい粒が硬くて、こっちはすごい柔らかいみたい」
「え?何でわかるの?」
「小麦が言ってるよ」
「は?」
「ライル師匠は僕のエクストラスキル忘れた?」
「あー、こんなに明確に声が聞こえるのか」
「最近はちゃんと聞こえるようになったきたんだ」
「それはすごいスキルだね。てか、粒が硬いのと柔らかいのって言った?」
「うん」
「多分だけど、硬いのでパン作るとうまくいくはず」
「本当に?これもらっていい?うちで粉にするから」
「てかもっと持っていきなよ。ドリー、硬い方の小麦をもうちょっと持ってきて」
「ワカッタヨー」
ドリーはレストランを出た。
「ドリーが取りに行っている間に、パンの酵母を作ろう」
「こうぼ?」
「俺もよくわかんないけど、パンをふかふかにするやつだと思う」
「やってみたい」
俺とチャールズ兄はキッチンに入り、俺は容器製造機で作った2Lボトルを数本とリンゴを数個取り出した。
「俺もざっくりしかわからないから、チャールズ兄に試行錯誤してもらいたいんだけど大丈夫?」
「わかったよ」
「クリーン!まずは容器をきれいにする。リンゴを芯と皮もそのままで切って容器に入れる。リンゴがしっかり浸かるまで水を入れる」
俺とチャールズ兄はリンゴを切って容器の中に入れた。
「これを冷やして数日置いておく。ごめん。ここからすごい曖昧だ。
数日したら容器の中に泡がでてくる。泡が確認できたら常温で保存するんだけど、1日に1回混ぜたり振ったりするんだったはず。何日か繰り返すと、細かい泡が増える。中のリンゴを取り出して残った液体が酵母液ってやつなんだと思う」
「ボトルが何個かあるから、ずらしてやってみる」
「ごめんね曖昧で、その酵母液とさっきの小麦の小麦粉を混ぜる。多分強力粉ってやつなんだけど。混ぜて常温で数時間放置して、また冷やしてをくり返すとパンの酵母ができるはず。曖昧で申し訳ない」
「わかった!ちょっといろいろやってみるね」
「チャールズ兄ってこのリンゴとか小麦粉とかの声も聞こえるの?」
「うちで作ってる小麦は収穫すると聞こえない。ライル商会の野菜は収穫してからも数日は聞こえるよ」
「そのスキルが生きるかもしれないね」
「頑張ってみる!」
ドリーが小麦を持ってきた。
「マスター、チャールズ、モッテキタヨー!」
「ありがとな。チャールズ兄は一度家に小麦と容器を置いてきな。今日はまだやって欲しいことがあるんだ」
「わかった。置いてくるよ」
「ドリーも手伝ってあげて」
「ワカッター!イクヨチャールズ」
ドリーとチャールズ兄はレストランを出て行った。
▽ ▽ ▽
ブライズさん達が戻ってきた。
「ライルくん。あんな素晴らしい家を使っていいのか?」
「お風呂もトイレも凄すぎるわ!」
ブライズさんとマリーさんは興奮していた。
「ニーナ、どうにかして。師匠命令」
「はーい。2人とも喜んでるのはわかったから、ちゃんとライルくんにお礼。それでこの話はおしまい。感謝はライルくんの力になって返すの!」
「娘が、ライルくんと一緒にいるようになって立派になってるーー」
ブライズさんが泣き出した。
「ブライズさん、そのまま泣き続けるならこのレストランの秘密教えないですよ」
「はっ!すまない」
「マリーさんは服製作の作業場ができるまでは、ブライズさんの手伝いをお願いします」
「わかったわ」
チャールズ兄が戻ってきた。
「チャールズ兄も戻ってきたので、レストランの裏にある食品工場にお連れします」
▽ ▽ ▽
食品工場に入ると、ブライズさんとチャールズさんは驚いている。
「こ、これは」
「なんなの?」
「まず、レストランと食品工場の従業員を紹介します。みんなおいで!」
ワー・ヨー・チュー・イーとトレス・ターが来た。
「調理を手伝ってくれる、ワー・ヨー・チュー・イーと
配膳を手伝ってくれる、トレス・ターです」
ゴーレム達は頭を下げた。
「みんな、この食品工場の工場長でレストランの料理長のブライズさんだよ。みんなブライズさんをフォローしてあげて」
「ブライズだ。よろしくね」
ゴーレム達は頷いた。
俺はマジックアイテムを紹介していく。
「これはジューサーと言って、飲み物を作る機械です。レストランにも1つ置いてあります。ビールとコーラとは違い、材料を入れます」
俺が何かを入れようと思っていると、ワーが切った桃を入れて桃ジュースを俺に渡してくれた。
「ありがとう」
桃ジュースをブライズさんに渡す。
「こういう風に果物を入れることで、果物のジュースを作ることができます」
ブライズさんが桃ジュースを呑む。
「うまいし甘い!これは人気でるぞ」
「このほかにもミカン・リンゴ・赤ブドウ・白ブドウができます。イチゴは牛乳と混ぜると美味しくなります」
「これはレストランのメニューに?」
「します。ここで作ってるのは販売用なので、レストランに置いてあるジューサーで作ってもらいます」
「わかった」
「続いてこのボトルですが、調味料が出てきます」
ヨーがスプーンに入れて、渡してくれた。
「ブライズさんとチャールズ兄、味見してみてください」
2人はスプーンを受け取り口に運ぶ。
「これは中濃ソースといって、カツにかけるとすごく合います」
「ほんとだ。すごく合いそう」
「こっちの醤油は何でも合うスペシャルな調味料です。生卵・卵焼き・目玉焼きなんでも合います」
「生卵はわからないが、ライルくんがいうならそうなんだろ」
「ほかにも紹介したいものはありますが、まだ実用段階ではないのでまたの機会にご紹介します」
「ここの管理もお父さんがするの?」
ニーナの素朴な疑問だった。不安そうな顔をするブライズさん
「管理といったら大袈裟ですが、ジュースの売れ行き次第でどのジュースを多く作った方がいいとかをワー達に教えてあげて欲しいです」
「それくらいなら任せてくれ」
「基本的に問題が起きたら僕とゴーレが対応するので」
「わかった」
「それでは、今日は領主代行の就任祝いとガルスタン夫妻歓迎会をやります」
「「はい!」」
「マリーさんとニーナは村の人に連絡を。ゴーレはセフィーナさんに連絡を」
「「はい!」」
「承知しました」
「ブライズさんとチャールズ兄は料理を」
「「はい!」」
「では行動開始!」




