111.コロッケと鬼将軍と領主の息子
夕方前に村に着くと、村長が慌てた様子で話しかけてきた。
「ライル!料理の準備は出来ているのか?」
「え?なんの料理ですか?」
「ルークとシャルのエクストラスキル取得のお祝いと、アイザックさんが明日帰られるからお礼のパーティだよ」
「そうなんですか?初めて聞きましたけど」
「お父さん、僕も知らなかったんだけど。パーティやることをライルにちゃんとして伝えたの?」
そう言われ、村長は考えている。
「あ!いつもライルが率先してパーティをしてくれるから、知ってるものだと思い込んでおった。すまん!私のミスだ!なんとか料理を用意することはできないか?」
「あーそうですねー。ゴーレ、学び舎に作り置きしてる料理で足りそう?」
「そうですね。サラダともう一品は作らないと足りないと思います」
俺は何を作れるか考えてみた。1個作れそうなものを思い付いた。
「村長、なんとか出来そうです」
「本当か?ありがとう。わしの面目が保たれる。ありがとう!会場の設営は任せてくれ!」
村長はそういうと広場に向かっていった。
「みんな、ちょっとだけ料理手伝ってもらえる?」
「「「はーい!」」」
俺達は学び舎へ向かった。
▽ ▽ ▽
「ちゃんと手を洗って、サラダをお願いします」
「「「「はーい!」」」」
「チャールズ兄は俺の手伝いね」
「うん!」
「ジャガイモをいっぱい茹でておいて」
「俺は肉を切り刻んで炒めるから」
俺とチャールズ兄は新作を急いで作りはじめた。
「チャールズ兄。茹でたジャガイモの皮を剥いて、ポテトサラダみたいに潰して」
「はい!」
「俺が炒めた肉を潰したジャガイモに混ぜて」
「はい!」
「これとこれを付けて、油に投入!」
サラダと新作料理が無事に完成した。
「みんなありがとう。会場に行くよ!」
「「「「はーい」」」」
▽ ▽ ▽
すでに会場は出来上がっていた。
村人も客人も全員揃っていた。
俺達はテーブルに料理を置いて、ゴーレに運んでもらったマジックドリンク製造タンクを2つ置いた。
「村長、準備できましたよ」
「おーありがとうライル。では、パーティを始めるか」
村長の乾杯の挨拶でパーティが始まった。
▽ ▽ ▽
パーティが進むと、アイザックさんが俺のところへ来た。
「ライルさん。色々とありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「今回の料理もライルさんが?」
「チャールズ兄と作りました」
アイザックさんは新作料理を指さしながら聞いてきた。
「あの見たことないジャガイモの料理、ほんとに美味しかったですよ」
「あれはコロッケという料理で、村で出したのも初めてのやつです」
「いつかレシピを買いたいですね。まずはこの村に人が来るようにして、浸透してからですね。私も頑張りますよ」
「助かります。ほんとアイザックさんが担当で良かったです。また魔力適性検査で数日後には街へ行くので、その時は会いにいきますね」
「ほんとですか。街に着いてすぐに来てもらえれば、宿の手配などしますよ」
「えー!それはほんと助かります」
アイザックさんとの話はすごく盛り上がった。
「じゃあ街に行ったら、よろしくお願いしますね」
「はい。では!」
次は、雷虎の拳が来た。
「ライル、色々ありがとな!こいつらにもいい経験をさせられたよ」
「本当にありがとうございます。パリスちゃんと息を合わせたら、遠距離攻撃ができるなんて思いませんでした」
「本当にいい経験になりました。鬼将軍の名は伊達じゃないなって思いました」
「鬼将軍?鬼将軍ってなんですか?」
「もしかして知らなかったのか?光剣の輝きをボコボコにした子供の指揮官が鬼のような指示だったから、野次馬してた冒険者が、「あれは鬼の子だ」「いや悪魔将軍だ!」って言っていて、噂が紆余曲折して、鬼将軍って二つ名が広まったんだ」
「えーなんですかそれ」
「街ではお前の情報が無さすぎるから、鬼将軍ってみんな呼んでる」
「なんだよそれー。5歳につける二つ名じゃないだろ」
「ははは!諦めろ!」
「えーーー!」
「明日帰るのが嫌になっちゃうくらい、良い村だったぞここは!」
「本当ですか?」
「アイザックさんとの繋がりがなかったら、この村を拠点にしようと思うレベルだ」
「じゃあ、アイザックさんが来る時は雷虎の拳が護衛で来るんですか?」
「まあ全部じゃないがその可能性が高いな」
「アイザックさんの護衛で毎回必ず来るって言うなら雷虎の拳の家を作ろうと思ったんですけど、毎回じゃないなら今の宿でいいですね」
「「「毎回来る!だから作ってくれ!」」」
雷虎の拳の家を作ることが決定し、ガッツさんは満足そうにアイザックさんのテーブルに行き、護衛依頼を毎回受けると話し始めた。
ガッツさんとの契約を終えたアイザックさんとセフィーナさんがやってきた。
「ライルさん、ガッツさんの件ありがとうございました。顔見知りの優秀な冒険者に長期契約できるのはこちらとしてはだいぶプラスです」
「それなら良かったです。僕も僕が作る料理やお酒を知ってる人を出来るだけ少なくしたかったんで」
「なるほど、あと1つお願いがあるのですが」
「なんでも言ってください」
アイザックさんの後ろでセフィーナさんがもじもじしていた。
「セフィーナ自分で言いなさい!」
「ライル様、私はこの街に住みたいです!」
「えーー」
「アイザックさんも住むってことですか?」
「いえいえ、私はライルさんの商品を売るという大事な仕事があるので村に住むことはできません」
「セフィーナさん1人では無理だと思うのですが」
「メイドを呼びますわ」
「メイド??アイザックさんの家はお金持ちなんですね」
「いや、その…ライルさんに黙っていたことがありまして」
「なんです?」
「私の名前はアイザック・カラッカと申します。そして妹はセフィーナ・カラッカです」
「ん?カラッカ?ここってカラッカ領って名前ですよね?」
「その通りです。カラッカ領主のラドニーク・カラッカ辺境伯の子供なんです」
「えーー!」
「この前、ライルさんが貴族に苦手意識があると聞いて、言い出せずにいました。僕は次男で今のところ継ぐ予定は無いので商人ギルドで働かせてもらっています。セフィーナは長女で王都の学園を飛び級で卒業をして、今は自宅で色々と学んでいる最中です」
「はー。あれ?領主様に会わせたいとかそういう話ですか?」
「いえ、ライルさんを父や兄に会わせるつもりは全くありません。そこは安心してください」
「はー。すみません。いきなりのことで全然頭回って無いです」
「こちらこそすみません!簡潔に言うと、わたしと妹は貴族で妹がこの村に住みたいと言ってるということです」
「なるほど。住むのは問題ないです。家も用意します。ただ領主様がセフィーナ様がこの村で住むことを許してくれますかね?」
「それは私がうまくやります」
「わかりました。街に帰られて許可が取れたら認めます。僕らも近々街に行くので、そのタイミングで合流できるのがベストですね」
「わかりました。絶対許可をとってきます!」
「ほんとすみません、ライルさん」
「大丈夫ですよ、アイザック様!」
「ライルさん!今まで通りアイザックさんと呼んでください」
「明日以降はアイザックさんに戻しますが、今日は領主の息子と黙っていた仕返しにアイザック様とお呼びしますよ!アイザック様!」
「ガッツさん達の言っていたことが理解できてきました」
「なんですか?アイザック様!」
アイザックさんの秘密を知り、ちょっと仲良くなれた気がした。
領主がめんどくさそうなイメージなのは今も変わらないが、辺境伯という地位に心が揺らいでしまった。
辺境伯はだいたい良い人!異世界あるあるだ。




