104.視察④
午後の授業が始まろうとしていた。
「あれ?ガッツさん達も手伝ってくれるんですか?」
「ここの授業はこいつらにも役に立ちそうだからな」
ガッツさんはダモンさんとパリスさんの頭をポンッとした。
「俺は元々Bランクソロ冒険者だったんだが、同郷のこいつらが冒険者になることになり、パーティを組む事になったんだよ」
「そーなんですね」
「こいつらはソロだとFランクだから、回復の嬢ちゃんと弓使いの坊主とはほとんど強さは変わらないと思う。だからここでの授業をみてなんか学んでもらえたらなと思ってな」
「じゃあ、ニーナとカシムと模擬戦します?」
「いやいい!お前みたいな性悪軍師がいたら、流石にこいつらじゃ勝てない!」
「その性悪軍師がダモンさんとパリスさんの味方として指示を出しますよ。ガッツさんはニーナとカシムにアドバイスあげてください」
「それは面白そうだ!やろう」
急遽模擬戦をやることになった。
「アイザックさん、すみません。模擬戦をすることになりましたので、好きな授業を見ていてください」
「いや、ライルさんの軍師っぷりを拝見したいので、模擬戦を見学させていただきます」
「わかりました。ゴーレ椅子を人数分お願い」
「すでにご用意しております」
本当ゴーレは優秀。
「ヒューズさん、ニーナとカシム借りますね」
「おう!勝手に連れてけ」
俺はダモンさんとパリスさんの元へ行った。
「ちゃんと話すのは初めてですね。よろしくお願いします」
「ライルさん、昨日の模擬戦凄かったぞ。ガッツおじさんと渡り合うなんて本当に感動した」
「わたしも!あれ見て頑張らなきゃって思ったよ」
「ならこの模擬戦は勝ちましょうね」
ガッツさんもニーナとカシムと話していた。
「なんか面白そうだから、模擬戦をすることになった。よかったか?」
「大丈夫です。あっちにはライルくんがアドバイスするんですね。絶対に負けられません!」
「そうだな!ライル師匠をギャフンと言わせないとな」
「よし!じゃあアドバイスをしてやろう」
「ダモンさんとパリスさんはガッツさんと同じ闘拳士ですか?」
「「そうです!」」
「すごい物理特化ですね」
「一応この小手に魔力を這わせられるぞ。俺は雷でパリスちゃんは土と水だ」
「なるほど、魔法は一応使えるってことですか?」
「私はアクアボールとストーンボール、ダモンはサンダーボールを使えるのは使えるけど、威力はあんまりないわ。2人とも魔力は高いけど操作が苦手で」
「なるほど、いろいろ工夫しないとダメそうですね」
俺はまた小賢しい作戦を思いついた。
「ダモンとパリスは魔法は使えるが威力は弱い。だが近接戦は俺が仕込んだから相当やれる」
「ということは、近づけさせちゃダメってことですね」
「ニーナのファイアウォールで距離取るようにするか」
「それと弓と魔法で近づけないようにしないとね」
ニーナとカシムも自分でいろいろ考えられるようなっているみたいだ。
「2人とも筋力には自信があるってことですか?」
「そうね。接近戦ならあの2人には負けないわ」
「わかりました。今回は接近戦をやめましょう」
「「は?」」
「じゃあ作戦を説明します」
俺は作戦を伝え終わった。
「ガッツさん、そろそろ始めます?」
「おう!いつでもいいぞ」
「じゃあゴーレ、合図を頼む」
「承知致しました。では模擬戦始め!」
始めの合図と同時にニーナが叫ぶ。
「ファイアウォール!ファイアウォール!」
近づけさせないつもりか。
ダモンとパリスの前に炎の壁が現れ、囲まれた。
ニーナとカシムはすぐに距離をとった。
「カシム、ファイアウォールがなくなったら一斉に攻撃ね」
「わかった!」
ヒュン!
ニーナとカシムの横を石が通り過ぎた。
「「え?」」
ファイアウォールの中から、
大量の石の塊がものすごい勢いで飛んできた。
「ストーンボールの威力がそこまでないって言ってなかった?」
「ものすごい威力だぞ。これ、当たったら大怪我する」
「エアロウォール!」
風の見えない壁が目の前に現れた。
「とりあえずこれで防げるけど、こっちも攻撃できなくなった」
「このタイミングで近づかれちゃいそう。もし近づいてきたら、アイアンソーンで距離を取らせるようにする」
ヒュン!
石の弾幕は終わらない。
ファイアウォールがなくなるが、ダモンとパリスは近づいてこなかった。
近づかずにひたすら石を投げてきていた。
「魔法で放つより、投げたほうが威力あるってやばくないか?」
「接近してこないし、とりあえずエアロウォールで防げてるから大丈夫そう」
「アクアボール!アクアボール!アクアボール!アクアボール!アクアボール!」
ダモンは石を投げ続け、
パリスはアクアボールを放ち続けていた。
「ニーナ、そろそろエアロウォールがなくなる。どうする?」
「石のスピードが落ちてきたから、頑張って避けて反撃しよ」
「わかった!」
エアロウォールがなくなる。飛んでくる石の塊を避ける2人。
「冷た!アクアボールは全然痛くないぞ。石だけ気をつけろニーナ!」
「わかった!」
2人は石を避け続けた。
石のストックがなくなり、石が飛んで来なくなった。
「カシム!反撃開始!」
「よし、いくぞ!」
バリバリバリバリバリ!
「え?あれ?」
「あっ!うそ…」
ニーナとカシムは倒れた。
ダモンは拳を濡れた地面に当てていた。
ゴーレが叫ぶ。
「勝負あり!」
俺はすぐにニーナとカシムの元へ行き、
「癒しの風!癒しの風!」
2人を回復させた。
起き上がった2人はすぐに俺に寄ってきた。
「ライル師匠。どうやってやられたのかわからないです!」
「わたしもいつの間にか倒れてて」
自分達がやられた悔しさよりも、やられ方を知りたくてしょうがないようだ
「パリスさんのアクアボールで水の道を作って、ダモンさんの拳に雷の魔力を纏わせて、水の道に流したんだよ」
「え?」
「そんなことが?」
「ニーナもカシムは今回は安全策を取りすぎたな。近距離戦をさせないようにしたら、長期戦になるのを予想しての行動は良かったが、今回に関してはファイアウォールで囲った段階で全力攻撃が最善策だったな」
「くそーまた負けたー!」
「悔しい」
「でも2人ともなかなか強くなってるよ」
「ライル師匠、ストーンボールを投げてくるのは反則だよ」
「ほんとに!」
「ははは!反省会はあとでしてあげるから、ダモンさんとパリスさんにお礼言ってきなさい」
「「はい!」」
2人はダモンさんとパリスさんのところへ向かった。
「ライル、お前の軍師っぷりはすごいな」
「ソロBランクのガッツさんに褒められるとお世辞でも嬉しいです」
「マジで言ってるんだよ。ダモンとパリスに遠距離攻撃の可能性があったなんて、俺は考えついてなかった」
「まああの筋力とたまたま属性がうまくハマっただけですよ」
「ダモンとパリスもここにいる間、正式にここで稽古させてもらってもいいか?」
「構いませんよ。今日の策は初見殺しなだけなんで、2人に色々戦い方を考えさせた方がいいですよ」
「アドバイス感謝する」
ガッツさんは俺にお礼を言った。
俺はアイザックさんの元に戻った。
「お待たせしました」
「ライルさん凄すぎです。なんであんな戦略が思いつくんですか?」
「ライル様すごいです」
「たまたまですよ。そういえばアイザックさんはあと何日くらい村にいてもらえるんですか?」
「本当は帰りたくないのですが、3日後には帰ろうかと思います」
「じゃあ商談の話は明日しましょう。今日は色々回ってんで、あとはゆっくりしててください」
「お気遣いありがとうございます」
アイザックさんとラフィーナさんは宿に戻っていった。
1人になった俺は、ニーナとカシムとダモンさんとパリスさんに捕まって反省会をさせられた。




