人を呪わば穴二つ
もし上司や同僚たちが近寄っているなら、化けて出やがったはずだ。消し炭になったのをこの眼で見たのだから! じゃあ、その魂ごと灰にしてやるよ。
瞳を閉じ4体だから合計4回憎悪を込めて、「火気子さんお願いします」と唱える。
いくつかのうめき声が聞こえた。少し不気味だが、瞳を開けてみる。
うわぁっ、ただれた顔の人間が目の前に4人立っている! 歩み寄ってくるので、俺は目をつむり藁にもすがる思いで「火気子さんお願いします」と唱え続けた。すると、突如大きなうめき声がしたので開眼。
ただれた人間たちは、煙の如く消えてしまった。全身が火傷したような人間、あれはなんだったんだろうな。今となっては正体がわからない。さて帰ろうか。噴煙が立ち込める街を、俺は再び歩きだす。
突然火傷人間が突っ込んできた。けたたましい雄叫びをあげて、単身で向かってくる。逃げるため全力で回れ右したら、目の前に火傷人間が立っていた。
寄るなっ、来るんじゃないっ!
必死に、2体の火傷人間を振りほどいて前進する!
なんてことだ、大量の火傷人間が突撃してきた。前にも火傷人間、振り返れば火傷人間。左右確認しても…。どこにも逃げ場なんてないじゃないかっ!
やめろ、腕を掴むんじゃない! あ、熱い。腕が焼けるような熱さだ。一体、これから俺に何をするというのか? 助けてっ、火気子さん!
「火気子さんお願いします!」
火傷人間が答える。
「容疑者確保。焦燥しきっております。同僚は数名、燃やされてしまいました…。よって、現行犯逮捕します!」
しまった、焦っていたから憎悪を込めてなかった…。
そして、俺は牢屋に入れられた。恐らくネットでは、俺自身が炎上しているだろう。助けて、火気子さん…。
看守が来たな、食事の時間か。
看守は牛丼を目の前に置いて、食事を催促する。
「看守さん、すいませんがこれ生焼け肉ですよ」
「おっと、すまんな。ちゃんと焼いてなかったか。火気子さんお願いします!」
ぐあああっ、まるで地獄の業火だっ! お、俺自身が燃やされてっ! 熱い助けて! このクソ看守!
「わしの娘はOLしてたんだ。それが燃やされて、灰になっちまった。ちょいとあんたには、恨みがあったもんでな!」
人を呪わば穴二つ。忌野際に俺は思い返した。
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