ファーストコンタクト
訪問ありがとうございます。
昼前、デスクワーク中また課長が余分な書類を寄越した。直接パワハラができない時代だから、間接攻撃だ。あーっ、ムシャクシャする。
◇◇◇
昼休憩。職場の洋式トイレに潜み、SNSで愚痴ろうと立ち上げたら炎上している。犯人は同僚だ、捨てアカ使わずに堂々と!
どうしようもない絶望にさいなまれ、
『ネット 炎上 仕返し』 で検索をかけた。
『火気子さん』という単語が妙に気になったので、サイトをタップ。
そこに書かれていたのは、都市伝説の類い。
『火気子さんは念縛霊。彼女を召喚する方法はーー。
燃やしたい相手へ強い憎悪を込めながら、「火気子さんお願いします」と念じる。』
本当だろうか、完全に都市伝説の類いだ。
しかし、冗談だとしても面白そうだ。早速課長へ憎悪を込める。
余分な書類を寄越しやがって!
聞こえるように悪口言うなよ!
部下を利用して嫌がらせするな!
ありったけの恨みを込めたら、早速(火気子さんお願いします)と念じてみる。
嘘だとしても少しスッキリした。洋式トイレから出て、わざと遅い足取りでオフィスへ戻る。
するとーー。男の叫喚・女の絶叫、怯え震える同僚たち。課長が人体発火を起こしていたのだ。猛り狂う炎は、まるで課長を憎いとばかりにまとわりついて紅蓮に燃え盛る。
ついに課長は炭と化した。OLが呼んでも返事がない、ただの消し炭のようだ。
ほんとに、ほんとの都市伝説なんて実在したのか! ふっ、ふふふふふっ…。火気子さんさえいれば、俺は無敵だっ!
次は、炎上させた同僚どもを燃やしてやれっ!
炎上させやがって! 自分らは課長に気に入られたかったのか!?
心に溜め込んだ憎悪の炎をたぎらせてから、念じた。
(火気子さんお願いします!)
目論見通り、同僚たちは地獄の業火と形容できるほどの灼熱に覆われた。
OLが必死に消火器をぶちまけるが一切効果がなく、猛る炎。
やがて、同僚たちは消し炭となりその場に崩れ去った。
やった…。
まてよ、このまま邪魔な人間を駆逐していけば昇進も間違いないのではないだろうか?
俺が会社、いや世界に煉獄の制裁を加える者として君臨してやるよ! なんなら、『煉獄さん』と呼んでくれても構わないけどな!
この日を皮切りに、俺は気に入らない人間を次から次へと火葬してやった。
時には社宅から出火、アパート全焼などあらゆるところで猛火が暴れまわった。
◇◇◇
俺が火気子さんを知ってから、1ヶ月が経った。
街中は出火が当たり前になり、退廃している。すべて火気子さんの仕業だけど。常に焦げ臭さが鼻孔を突く。
ついに、ここもゴーストタウンになったな。俺をディスる者はおろか、人影すらないし。
噴煙で霞む街を、俺は一人歩く。敵がいなくなって喜んでいる反面、悲しくもある。俺には敵が多かったんだと。昇進以前に、みんなから嫌われていたんだと。
会社も灰塵と化し、暇になった俺は孤独にも家路に着く。
俺の足取りは重いのに、背後から妙に軽快な足音がする。誰かいるのか?
振り替えるも、噴煙でよく見えない。確かに、街の嫌いな住民は燃やしたはずだ。それ以外も恐れて逃げた。だから誰かいるはずがない。
少し寂しさに囚われていたせいだと、たいして気にせず歩き出す。
まてよ、これは気のせいじゃない。歩き出してすぐに、ヒタヒタと何者かが着いてきている。恐る恐る振り返っても、噴煙で見えない。逃げ遅れた者か?
いや、何十人も焼殺しているんだ。今さら情などわかない。
家路を急ぐと、また足音がする。明らかに誰かが俺を着けているな。
いつの間にか、前と左右からも。噴煙で見えないのに、何者かたちの足音は容赦なく近づいている。
俺が燃やした奴らか? 何か言いたそうに、うめきながら歩み寄ってくる。