陽炎燃えた夏の日の夜に・第-㊈ 1.無常の最期を……。
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「ハッ──」。
煌めいていた青葉が。
キラリ、ヒラリと。散っていく……
「ウオオオオオオオオオ!」
<バキバキバキバキッッ!!>
《こいつらに囚われて、俺は一瞬だけ気絶していたのか。しかしなんだったんだ、さっきの夢は》
<ザ、ザザザッ! タンッ、バサッッ!! ザザッ>
意志を持つかのような巨木の根。
地表の上を覆っているそれらは次々と土壌から湧き出す。足や腕を囚われても尚凌ぎつつ、だが、唯。
ひとり。切なく。
その男児は年にして十の歳の頃。
空虚の狭間で君臨する大木づたいに、彼は根元、枝、幹を飛び跳ねながら登ってゆく。
高さ二十メートルぐらいの大樹の上方、とっくのとうに痺れを切らしながら枝の真上に立っていた。
暴れ狂う気根は枝の真下で存在感を示す。しかしながら等間隔ではなくとも大地の下でまっすぐに根差すその緑樹は、生命を謳歌しているようだ。
だが周りは生気のない【深き闇】それだけである。
「まだ辿り着けないのか。いつまでかかるんだよ。くそ、一体全体どうなってるんだ」
童は焦っていた。
時は約束の期限まで近づいている【闇】が活発にもなる時間だ。早急に辿り着ければいいが……。
【黒く淀んだ空間】から現れ出てくるは、得体のしれない敵者。繰り出してくる「お手並」へは、童は拝見して負かす構えも決定的だ!
《あれ、コイツら。さっきの夢に出てきたヤツらと同じだ。夢の後の急転直下、殺伐とした域においてのこれって》
「なんだ。薄気味悪い変態な格好をしたコイツら……。ま、いいだろう。お前らのそのへなちょこな『飛び技』を、俺の身なりも交えながら、かわそうじゃないか〜〜!!」
《あれ、喋りも。さっきみてた夢と全くおんなじことを俺は言ってるぞ? なんだ。何故だ!? この『宙の理』は。正夢をみせられていたのだろうか。俺は》
……
……
……
……いくつかある袈裟の一種である、五つに縫い合わせた(五条袈裟)の綾布を細長く畳み、開かないように組紐で結んで連ねたもの。その僧侶が……
……
……
……
《やっぱり話もなにもかもさっきの夢とまったく同じだ!! この現実は何を意味するんだ……、いや。そんなことより時は今だ!》
夢のなかの言葉と実際のセリフ。不思議な直覚ではあったが、
一定時間内にある「現実においての本当の上の空」は樹々の上部の闇だけだ。一番大切なのは目下!! 彼は正気をとり戻そうと再三腹をくくった。