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<五>

 ♢♢♢


 晴明様を何とか師事に成功した。様々なことを学んで学んで、次は実践だという頃のことだ。

「お前には、ちと早いが、実践を経験せよ」

「…え?」

「もういくら知識を詰め込んでも、私の弟子になったのならば、後は実践しかあるまい」

 にやりと笑う晴明様にそう言われてしまえば、反論はなかった。

 本音では、早く実践がしたかったのだったのだ。ただ今思えば、兄弟子をそっちのけにしてしまう形で、俺が加わっての大退治だった。

「あやつなら、心配せんで良い」

「ですが…」

 最初の興奮が冷めたら、後から師事した俺が、こんな大妖退治に参加して良いのかと、先輩の方が実践の場数が多かったから、まだ迷っていた。

「迷いは捨てよ!…これより先は命懸けじゃぞ」

 既に後戻りは出来ない現場に、足を踏み入れてしまっていたのを、場の空気が伝えてきた。慌てて頭を振るって、雑念を払った。



 夏だというのに、虫の声だけでなく、こんな荒れた土地を好む妖等の姿や声すらしない寂れた邸跡は、何だか体感温度がかなり低い気がした。

「えっと…何か、可笑しくないですか?」

 一人の先輩弟子が、晴明様の背中に声をかけた。しかし晴明様は、片手で動揺してはいけないと制した。

(…かなりの強敵。なのに、何故に俺を?)

 出発直後までの疑問が、再び湧き起こった。今度は容易に抑えられそうにない。どんどんと大きく膨らみかけたその時ーー目の前を大きな影が横切った。

「え?な、に?」

 俺達が驚いていると、先を歩いていた晴明様が振り返った。

「気をつけろ。奴の仲間もおるぞ」

 彼の言葉に周囲を警戒すると、先程の大きな影が横切り、土埃を上げて蹄の音がして、ゆるゆると横を見やると、そこには、四本の角を持った真っ白な牛が立っていた。

「其奴は、人を喰らう妖ーーゴウエツと馬腹じゃ!」

「せ…せ、山海経(せんがいきょう)のーー」

 俺の口から自然と漏れた呟きを、晴明様は目を細めて頷いた。


 ーー『山海経』とは、今日的な地理書ではなく、古代中国人の伝説的地理認識を示すものであり、「奇書」扱いされている。編者は禹およびその治水を助けた伯益であると序などに仮託されているが、実際は多数の著者の手によるものと考えられる。内容のほとんどは、各地の動物や植物や鉱物などの産物だが、その中には空想的な存在ーー妖怪、神々の記述も多く含まれ、古い時代の中国各地の神話が記されていると考えられている。その為、後世に失われたものの多い中国神話の重要な基礎資料となっている。

 もともとは、絵地図に解説文の組み合わせで構成されており『山海図経』と呼ばれていた。既に、絵地図も失われてしまっており現存もしていない。現在残されている画像は、『山海経』本文にある文章から逆算された後世の想像によるものであり、伝来する系統によって全く違う画像となっている。

 本文も当初そのままのものは伝来してはおらず、後世に編集と再構成が施されている為、所々で復元のされていない部分の再構成によって、方位や文意の不明確な部分も存在している。

 五蔵山経(南山経から中山経の5巻)では、その巻に登場した山の数、距離を合計して、何里あるかを示す文章が登場しているが、山の数・距離と計算が合っていない。これは復元されずに、消滅してしまった文章が存在しているためであると考えられている。

 構成している総編数・総巻数には時代によって異同があり、劉歆(りゅうきん)が漢の王室に奉った際に、伝わっていた三十二編を校訂して十八編としたとされている。

 『漢書』「芸文志」では十三編。『隋書』「経籍志」や『新唐書』「芸文志」では二十三巻、『旧唐書』「経籍志」では十八巻。『日本国見在書目録』では二十一巻としている。

現行本は、西晋の郭璞(かくはく)の注釈を付しており、五部十八巻となっている。

 河南省の洛陽近郊を中心として、叙述されている五蔵山経は、時代を追って成立した本書の中でも最古の成立であり、儒教的な傾向を持たない中国古代の原始山岳信仰を知る上で、貴重な地理的資料となっている(洛陽を中心としている点、後の儒学者達が排除した伝説や鬼神の多く登場する点、西王母が鬼神のような描写である点から、五蔵山経の部分の成立は東周の時代か)。そして、平安時代の朝廷の陰陽寮へと伝わった。



 再び頭上を大きな影が横切った。今度は目に焼きつくように、姿がはっきりと見えた。一体は、牛のような姿で体は白く四つの角を持ち、蓑を被ったかのような毛が生えていた。もう一体の妖は、人面に虎の体を持つ獣で赤ん坊のような声で鳴く人喰いだ。

「ひっ!」

 俺は身を竦ませて、立ち尽くした。隣りに立つ先輩弟子は、声も出せずに硬直したように立ち尽くしてしまった。

「無理だぁ!」

「うわぁー!」

 そう叫んだのは、二人の先輩弟子だった。彼等は、脱兎の如く逃げ出していってしまったのだ。後日、詫び状と弟子を辞意すると去って行った。

 こんな危険過ぎる状況で残った一人の先輩弟子と俺に、晴明様は淡々と退治の方法を告げた。

 その方法は、晴明様がお一人で窮奇を退治して、先輩弟子と俺は雑魚とは言い難い仲間を二人で退治しろという内容に絶句したのだった。

 結局、窮奇の仲間は二人で退治することが出来たのは、晴明様の十二神将の六人が援護に就いてくれたからだ。

 退治して駆けつけたけれどーー間に合わなかったし、晴明様や十二神将に加わった二人の弟子では、窮奇は地中深くに封印するしか出来なかったのだった。

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