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<十四>

 ♢♢♢


 アスラの分身は、アスラ自身に粛清されたとはいえ、蒔かれた種は芽吹きーー好き勝手に行動を始めていた。それはアスラ自身すら、収拾がつかなくなる程であった。

 晴明を含む詠二達が、対抗処置していた。毎日あちらこちらに飛び回って戦い、殲滅寸前まで至っていた。

 それは、分身であれば攻撃の手を強めていくだろうが、アスラ本体にとっては手間が省けて大いに好都合なことだったので、静観していた。



 かの神の声がしていたような気がしていたが、別の意思が働いて聞こえなくなると、瑛矢は未だに捕らえて離さないアスラから、どうすれば逃げられるのかを考えなければならずーー熟考している余裕何てない状況下で、即決して行動に移さないといけないと思い至った。

(一か八か…)

 危険な賭けに出ようとしたその時。

「…僕は闘神として、悪神どもを殲滅したかっただけなのに、どうして悪神扱いだけでなく、首謀者にされなきゃいけなかったんだと思う?」

(…え?)

 ただの戯言なのかと聞き流せばいいのに、何故か気になってしまって、聞く耳を持ってはいけない相手だと分かっているのに、動けなくなってしまった。

「ねぇ、どうして何だろうね。…誰かが生贄になることで、得する輩がいたのかな?だったらさぁ、そいつが神々を二分にした黒幕だということだよねーー…サイは、どう思う?」

 瑛矢には、そんなことを聞かれて答えられる筈がなかった。神々が争い始めたのは、確か自分が生まれる前だったのだから知る由もない。

「シヴァに愛でられていたんだから、聞いてないかなぁ?」

「…しつこいぞ。かの神に愛でられてなんか無い!」

 必死で身を捩ると、少しの緩みが生じてアスラを突き放した。

「あははっ。記憶を弄られてるみたいだね。君は半分は神の血を継いでたんだよ。バイラヴァになる前からね」

「何を言ってる?両親共に人間だった!」

「へぇ、それを信じてるんだぁ。まぁ、母親は破門されてしまった《星見》の弟子だったんだよ」

「……っ」

「あー、それは知ってたんだね。父親はね、夜を統べる神だよ。だから、君の母は破門されたんだ…《星見》は神を愛してはいけない禁忌(タブー)だからね」

「嘘を吐くな!言葉で俺を弄ぶな!」

 俺は堪えきれずに、踵を返して走り出した。


 ーーアスラは、あれだけ強引に捕らえて離さなかったのに追いかけては来なかった。




♢♢♢


「瑛矢!どこ行ってたんだよ!」

 疲労困憊気味の詠二が、彼の顔を見たら不平不満を含ませた表情で見据えてきた。晴明もマーヤも然りで、何とも言えない雰囲気に部屋に踏み入れた足を止めた。

「きゃっ」

 今度は何事かと振り返ると、舞織が自分が足を止めたことで、部屋に入ろうとした彼女は背中に体当たりしてしまったようだ。

「何ぼんやりしてんだよ?…舞織、大丈夫か?」

「え、あ、うん…」

 彼女は、何だか歯切れの悪そうな反応だった。

「……」

「大丈夫か、二人とも?」

 詠二が小首を傾げて、不思議そうに様子が可笑しい二人を見た。

「……まぁまぁ、それぞれ事情があったようじゃから、困らせるでない」

 晴明は二人を一瞥し、詠二に別件の指示を伝えると、瑛矢に向けた無言の彼の表情から任務を告げていた。

「気をつけてな!」

 課長は、二人の背中に向けて叫んだ。その声も、どこか疲れているようだ。皆が疲弊しているのは、自分が不在の間に何かが起こったのだろう。アスラのせいで、彼等を大変な目に遭わせてしまったと気落ちした。

「莫迦瑛矢。…お前のせいじゃないって」

 自分がアスラといたのは、五日ほどだった。その間に魑魅魍魎の大軍が、数ヶ所に出現したという。ただいずれも魑魅魍魎のレベルは弱く、最初は楽勝だったが、ほぼ毎日数ヶ所に現れたから、人員不足で疲弊しただけだと話した。

「…お前無しだと<力>不足だなって思ったよ」

「詠二…」

「今日こそは、茶々っと片づけようぜ」

「分かった」

 


 現場はーー魑魅魍魎の団体様が三組。派手に暴れていた。けれどやはり、被害が余りに大きくはなかった。この魑魅魍魎は、規模は大きいが脆弱な集まりに過ぎない。不自然ではあるが、微かにアスラの気配が混じっている。

(本気のようで本気じゃないのか?)

 今までのように、邪魔者は消すという明確な殺意があったが、今目の前にいるのはあそびレベルの妖の集合体で、攻撃はしてこない。

(何が目的なんだ?)

「さてさっさと終わらせようぜ」

 先制攻撃をし始めた詠二は、ほんの少し会わない間に、能力値が上がっていた。

 彼に合流しようと足を一歩踏み出した途端、三組の魑魅魍魎が突然現れた嵐に煽られて、上空へと舞い上がった瞬間、花火のように弾けて散り消えた。

「な、何だ?」

「……ちっ」

(悪神の癖に、何を考えてるんだ!)

 今は視えない奴の気配を感じて、心の中で悪態吐いた。

「瑛矢?」

 彼の様子に気づいて、恐る恐る名前を呼んでみた。瑛矢が自分を背中へと押しやると、まるで猫が威嚇しているかのように<気>が痛いほど放っていた。

(怖…)

 簡単には表現するなら、怖いとなる。それくらい、今までにない殺気立っていることがわかって、彼の後ろで様子見をするしかなかった。 



 目の前に現れたのは、純白の古代衣装を身に纏った少女とも女性とも判別がつかない人が、能面の如く無表情で、瑛矢との距離約一メートル程に立っていた。

 瑛矢は、殺気立っていた気配をほんの少し和らげはしたが、威嚇だけは止めることがなく、俺が前に出ようとしたら強めに制止された。


ーーサイ。久方振りですね。


「かの神の妃である身で、現世に姿を見せるとは、如何されましたか?」

(え?もしかして、女神?)

 神々しさが些かも視えないただの女性にしか思えない。だが、瑛矢が丁寧な言葉遣いをしているということは、そういう立場の存在なのだろう。何より、頭に響く<声>が徒人に非ずを証明していた。


ーーこのような事態になるとは、想定外でした。


 すると、もう一人が現れた。こちらは多分、シヴァ神のようである。場の空気が重くなりながらも、女神が放つ光りが中和しているようだった。


ーーしかし廻してしまった歯車を止めることは出来ませんでした。まさかアスラの血肉が降り注いだだけでなく。


ーー分身までも、人界に送っていたとは…。


「マーハーディーヴァ。マーハーディヴィよ。どうか、お嘆きにならないで下さい。これは神でも人間でも戦乱が起きれば、よくあることではありませんか」

 普通の人や記憶持ちの転生者とは異なり、瑛矢の言葉には達観した感情と、現世に現れたことに対する苛立ちが含まれているようだった。

「今生では、手助けになる者達がいます。どうか嘆かずにお戻り下さい」

 少々、棘混じりな言葉だったようだが、女性はまだ何かを言いたげにしながらも、光りの中に溶け込むように消え、シヴァ神は瑛矢を睨むように一瞥して消えた。

「瑛矢」

「何惚けた顔をしてるんだ?」

 彼の言い草に、何を言おうとしたか忘れてしまい、口をへの字にした。すると、瑛矢が申し訳なさげな笑みを浮かべた。そんな彼を見たら、思い出さなくてもいいかという気持ちになった。

(…あー、早く終わり(けり)をつけたいんだ…)

 長い長い終わりが見えない歳月の流れを見つめ続けた彼は、やっと終わりへの一筋の光りを見出せたのだろう。たった一度だけ、聖牙神(バイラヴァ)のサイが交わった俺達の先祖との縁。それが現代においてアスラを抹殺する道具(たすけ)となるようだ。

「お前達には、申し訳ないと思ってる」

「な、何言ってんだよ。仲間じゃん」

 冷たくあしらわれるかと、内心冷や冷やしながら言ってみたーー少し間が空いたが鼻で笑い、俺の額に指弾を食らわした。




♢♢♢


 晴明様の屋敷内で、ひと時の休息と鍛錬が行われていた。俺と瑛矢は、晴明様の十二神将達と半殺しに近い実戦を繰り返し繰り返しーー三日後の開始と同じ時間きっかりに終えて、俺が先に気絶した。

「ようやり通したのう」

 玄武が俺を寝室に放り込む時に呟いたらしいと、後から聞いた。

 瑛矢は暫く動けないままではあったが、やがて泥のように、俺と共に丸一日眠り続けた。

 一方で、舞織は舞織で自分の能力に磨きをかけるべく、晴明様の旧知の篁氏が手伝ったそうだ。

「君の能力自体は弱過ぎる。が、守護霊でもある意毘登(いびと)を完全憑依させてコントロールが出来れば、あいつらの助けになれるだろうが、事は簡単ではないし…時間が惜しい故、このこれを使えばいい」

 彼が懐から出したのは、何やら曰付きの数珠だった。

「…数珠?」

 舞織は篁氏から受け取った瞬間、ただの数珠でないと気づいて、小首を傾げて顔色を変えた。

「気づいたか。それは、《浄玻璃鏡》と同じ素材で作られた《数珠》だ」

「え?…地獄の沙汰に使われる…」

「よく学んでるな」

 彼女の頭を撫でると、横から晴明が篁氏の手を(はた)いた。が、彼は気にすることもなく、次の段取りへ進めていった。

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