大きな人
「晩御飯の時、変なこと言ったかな」
自室に戻った僕へのパールの第一声。昨日と同じようにカーペットの上で体育座りする彼女。僕よりよっぽど人の心の機微に敏感。
「ううん。パールのおかげで今日よりも強くなれるよ」
何も気にする必要はない。父さんも母さんも、既にパールのことは分かっているハズ。僕だけじゃなく世界中の人たちを守りたいと考えている優しい彼女のことを。
「やっぱりレンは優しいな」
今のパールの輝きは直視できない。
翌日。学校終わりの訓練場。今日もトリーさんは遠くから見学。主にフレアさんを。
「レンくんは今日から十回ずつ基礎訓練の数を増やしていく。最終的には百回ずつと五十周で固定。一時間以内に終われば、その日は模擬戦を行おう」
フレアさんに辛勝できた僕。何かしら修行内容に変更があるとは予想していた。今日は腕立て腹筋スクワット六十回。マラソン三十周だろうか。昨日は四十分ほどで終わったのだから、一時間以内ならなんとかなりそう。
スクワットまでは昨日と思いの外変わらなかった。しかしマラソンが中々終わらない。
訓練場の入り口を通る度に中を見る。キハは射撃訓練。あとの四人は模擬戦をしている模様。外周を走る僕の耳にまで五人の剣戟の音が届く。
三十周終えると訓練開始から一時間丁度。肩で息をしながらゴランさんの前に戻る。
「レンくんは今日からはワシとの手合わせ。想像剣なしでワシに勝てるようになるまでは頑張ってもらいたい」
昨日の辛勝は想像剣ありき。フレアさんと同じように重みのある鉄剣では勝てなかっただろう。ゴランさんはもうお見通しの様子。
鉄の塊を手に持つ。日頃の鍛練の成果か、簡単に持ち上がる鉄の剣。
「レンくんの勝利条件はワシに参ったと言わせること。若しくは気絶させることだ」
もしかして直撃させろと言うのか。刃が外されていても相当な痛みだろうに。
「まぁ。試しに打ち込んで来なさい」
ゴランさんは頭を右に傾け首の左側を差し出す。そして指で攻撃するように合図。
振りかぶって叩き付ける。流石に全力ではなかったけれど、僕にまで伝わる弾かれた剣の振動。震える腕に遣っていた視線をゴランさんに移す。すると何事もなかったかのように、彼は僕を見つめたまま。
「では本気で来なさい」
僕の修行はまた一つ新しい段階へ。
ゴランさんの目は確実に僕の攻撃の軌道を追う。しかし回避の様子は見せず、肉体で受け止め続ける。初めの数回は手加減していたが、今では殆ど全力。なのに硬い壁を殴っているかのように疲労が見られるのは僕だけ。
「そんなものではワシの体にダメージは入らんよ。次はこちらから行くぞ」
ゴランさんの剣が起こす風圧は、父さんやフレアさんとはまるで別物。斬り裂くのではなく、叩き潰すような。




