あと一歩
フレアさんとのタイマンが始まり数分。他のみんなの目も慣れてきた頃だろう。そして僕も攻撃を受け流すのに慣れてきた。必要があれば、今の速度なら一度くらい隙を作れるハズ。作戦会議のためにも、一旦仕切り直せるといいのだけれど。
「見えてきたよフレアさん」
キハの合図。何も言わなければ不意打ちを仕掛けられただろうが、敢えて口を開いたということは僕に後退しろというのだろう。
後ろへ跳ぶ。当然フレアさんは僕を追撃。しかしキハの射撃が行く手を阻む。
「ハッタリではなさそうですね」
フレアさんは距離を取り額の汗を拭う。今の内に作戦を考えなければ。
「私たちにもぼんやりと動きが見えてきてるの。だからレンくんが気を引いている時に四方から囲めば今回こそ勝てるわ」
セイラちゃんの立案した作戦。猶予のない僕たちには一番の選択だろう。
もう一度僕が飛び出す。フレアさんは予想通りといった表情。先ほどの結果からも当然の一手。おそらくは次の攻撃も想定内。
だったら僕がフレアさんの流れを狂わせて隙を作ればいい。以前のアグルさんとの戦闘から横薙ぎを上に払うのは得意。もしも蹴りで僕が行動不能に陥っても、残る五人が仇を討つ。
痛い思いをする覚悟を決めたところに迫り来る横薙ぎ。左から右への攻撃を、僕は逆手に持った剣で上へ弾く。目の前に浮かぶ無防備な体。意外にも蹴りは来ない。
フレアさんの後ろからパールたちが接近。彼女たちがゆっくりとした突きを繰り出した瞬間。僕の肩にフレアさんの足が乗る。
そして、宙返り。
今度は隙だらけの背中を見せた女子四人。振り向こうとした順番に緩い攻撃を受ける。
「以前の一撃も直前で止まった。パールさんの太刀筋には迷いが見られますね」
僕たち六人しかパールの事情は知らない。他の人から見れば手を抜いているのか、迷いがあるように映るのだろう。
「ならパールの分も僕が戦いますよ」
僕の声にフレアさんが振り向く。
女性陣を退けるためにフレアさんは僕から視線を外した。僅かな時間だったが、死角に潜り込むことに成功。戦いでは一瞬の油断が命取り。フレアさんが教えてくれたこと。
三人の師匠の教えを、剣に乗せて放つ。
「自分に太刀筋が見えている限り直撃はあり得ません。まだしばらくは負けませんよ」
風の刃が空を切る。僕の出した突きは、当たる直前で身を翻したフレアさんに躱されたのだ。咄嗟に彼の方向へと薙ぎ払いを出す。
フレアさんは膝を曲げ上体を後ろへ反らし剣を回避。そして僕へ斬り上げを見舞う。
衝撃と痛みに右目を瞑る。フレアさんも手加減をする余裕がなかったのだろう。ならば僕たちも多少は成長しているということ。
近接部隊が倒れたタイミングでキハの乱射が始まる。狙撃をしようにも仲間へ命中する可能性が高い乱戦時では安定しない。遅いと思われる今のタイミングが唯一のチャンス。
当然回避された弾丸。そしてキハも脱落。
「今回の模擬戦は実りの多い物だった。明日からはキハくんだけ特別メニューとしよう」
夕日を背に僕たち五人へと向けられたキハの青白い顔。果たしてゴランさんの言う特別メニューとは。




