父の残影
テレフープの中の暗闇。先頭を歩く僕からだと、最後尾のトリーさんの様子は分からない。他のメンバーが何も言わないところを見ると、特に怯えてもいないのだろうけど。
出口の光に包まれる僕。テレフープを抜けると、今日も仁王立ちで待っていた師匠二人の姿が映る。トリーさんが顔を出すとフレアさんに驚きの表情が浮かぶ。
「また新しい仲間ですね。自分は皆さんの訓練を担当しているフレア・ディス曹長です」
フレアさんはトリーさんに握手を求めて手を伸ばす。固く手を結ぶ二人。
ゴランさんは微笑みを湛えたまま。元から六人を指導していた彼。今さら一人増えてもあまり変わらないということだろう。
今日も基礎トレーニングから。トリーさんは訓練には参加せず見ているだけ。だけども楽しそう。友達の笑顔は、僕まで楽しい気分にさせる。
体力が付いてきたのか、楽しんでこなしたおかげか分からないが、マラソンまで終えても掛かった時間は五十分強。
そして次はフレアさんとの模擬戦。昨日の発見が通用するのか試す時。
「お友達に皆さんの強さを見せてあげてください。今日はレンさんを基準にしますから」
フレアさんの言葉はよく分からないが、剣を手に歩いて僕に近付くと、ゆっくりと斬り下ろしを繰り出す。昨日セイラちゃんにしていた動作と同じ。反応に困りつつも風刃剣で防御。すると次は初段よりも少し早い横薙ぎが襲う。僕はまたも余裕で受ける。
フレアさんが剣を引く。目付きが変わり、彼の周りの空気が熱を纏う。振り上げた一撃は先の二発とは比べ物にならない。しかし。僕の目には確かに見えた。攻撃の軌道。最適な防御のタイミングが。
「たった一日であり得ないほどに成長していますね。数日の内に本気を出さねばならなくなるでしょう」
ということはまだフレアさんには届かないということ。剣を納めて距離を空けたフレアさん。六対一の試合の幕開け。
「レンを基準にされたんじゃ堪ったもんじゃないぜ。フレアさんが認めた成長ってやつで俺たちも守ってくれよな」
話しながらキハが僕の横に立つ。ペイント弾が装填された銃を構え、迎撃の用意。
「では、行きます」
合図と共にフレアさんが踏み込む。昨日の接近速度を超えているが、僕の目は彼の挙動を捉えたまま。あとはリズムを崩せるか。
キハが後ろへ跳ぶと同時に連射。おそらくフレアさんの動きを捉えられていない彼。全ての弾が二歩分遅れている。
最初の標的は僕。実戦なら他のメンバーを倒し戦力を削ぐのだろう。だが特訓だと瞬殺に何も意味はない。だから五人の目が慣れるまで、僕とフレアさんの剣戟が続くだけ。
僕自身なぜフレアさんに付いていけるのか分からない。昨日の発見と父さんの教えを頭に置いて対処。反撃は選択肢から捨てて受け流しと防御に全てを注ぐ。やっていることに他に変化はないが、僕の目にはフレアさんの動きがしっかりと映る。
「昨日よりも速く動いてるんですけどね」
模擬戦の最中に初めてフレアさんが汗を流す。しかし彼の表情は相変わらず爽やか。




