パール・ヴェヴ
「え? 僕が機械の彼氏?」
人間を作り出すという願いと、強力な武器となり得る物を許可なく作り出す願い。皆が幼い内に教えられる、してはならない願い事の掟。他の国にも同様の規律が設けられていると聞く。
だが、思い返してみれば僕の願い事を二つとも叶えてやると彼女は言っていた。聞いた時の僕には何のことか分からなかったが、機械が彼女なら確かに誰もが羨むだろう。
「私は嘘は言わない。レンが嫌なら話は別だが、どちらの願い事も協力してくれるなら、私は君の彼女でいよう」
暗い建物の中で輝いて見えた女の子。セイラちゃんを含め、美少女と言われる女の子の容姿に、トキメキを感じたことはある。けれど僕の人生において、目の前にいる彼女以上の存在に出会えるのだろうか。
最高の美貌。誰もが羨む存在。確かに僕の願い通り。だけど何よりも、僕の心が今までの人生で欠けていたモノを見付け出したと言い舞い踊っている。僕の答えは決まった。
しかし、一つだけ気になることが。
「僕はあなたが良いと言うまで守ると誓いました。美人だからという理由もあるかもしれない。けど、何よりも特別な何かを感じたから」
僕の言葉に嬉しそうな顔を見せる機械。
「でも、機械は僕が彼氏で本当に良いの?」
唯一の疑問。しかし、聞かなければ良かったかもしれない。僕が話し終えるまで昇っていたお日様が、今は雲に隠れているから。
「今までも彼女が欲しいと願った者はいた。その度に彼氏が欲しいと願った者を紹介していた。私で良ければなんて言ったこともないし思ったこともない。だからこんなことを女に言わせるな」
僕が幼い頃から機械を知っているように、彼女も僕のことを幼い頃から知っている。何故か話していて落ち着くのも、今なら惹かれる何かを感じていたのだろうと思う。
「ごめんなさい。余計なことを聞きました」
不機嫌な顔を止めて、また笑顔に戻った彼女。僕の手を取り優しく話す。
「まともな状況ではないから。レンが疑問に思うのも仕方ない。私だって今は戸惑っているんだぞ」
深く息を吸うと、力強い瞳に変わった。
「これからよろしくお願いします。まずは、レンには敬語を止めて欲しいかな」
微笑む彼女の顔が、僕の判断に間違いがなかったと教えてくれる。機械の願いを聞いた初めての人間が僕。明日からは一生の自慢。
「こちらこそよろしく。えー、っと」
また一つ疑問が浮かぶ。機械には感情もあるし、体も見る限り人間そのもの。ならば、本当の名前があるんじゃないか。
「私が人間かどうかとかが気になっているのかな?」
確かに彼女の言ったことも気にはなる。けれど、人間でなくても僕の気持ちに変わりはない。今の僕が気になるのは。
「機械って呼べば良いのかなって。本当の名前があるんなら教えて欲しいな」
驚いた様子の機械。
「私の名前か? いや、大事なことだよな。私の本当の名前は」