転校生
午前八時。キハたちが迎えに来た。父さんたちのおかげで元気を取り戻した僕とパールは、いつもの四人で学校へと向かう。
テレフープの目的地は学校の屋上。暗い道を抜けて光の中に出る。当然のことながら、周囲に他の生徒はいない。
「とりあえずは一安心だな」
パールが安堵の溜め息を吐く。すると屋上にアグルさんとイオンさんがやって来た。
二人も朝の恒例行事がなくなって安心した様子。穏やかな表情が浮かぶ。
余裕を持って教室へ入る僕たち。同級生は先頭のキハを見て心構えができたらしく、僕の後ろにいるパールを見ても奇声を上げたりはしない。きっと今日からは喧騒に満ちた朝とはオサラバできるだろう。
授業の始まりを告げるチャイム。担任の先生が教室へと入って来た。すると横には見慣れない女の子。彼女は緊張から萎縮しているのか、スカートを掴んで下を向いている。
「転校してきました。ゲーラ・トリーです」
挨拶のために顔を上げたトリーさん。
茶色のお下げ髪が揺れ、丸く大きな垂れ目が泳ぐ。背の小ささも相まってまるで怯えた小動物のよう。ざわつく男子たち。
「トリーさんは一番後ろの席へ」
先生の指示にトリーさんは頷く。そして堅く手を握り締めたまま歩き出すと、生徒の前を横切る度にお辞儀を繰り返す。
彼女の席はセイラちゃんの真後ろ。座ったトリーさんに早速話し掛けている。
授業を終えて休み時間。カラルは学校の数も多くなく、転校生は珍しい。初日のパールを取り囲んでいたのは、僕の自慢の彼女の美しさが理由の第一位だとして、転校生自体の珍しさもあったのであろう。なので、当然の如く取り囲まれるトリーさん。
見る見る内に青褪めていく彼女の顔。
「仕方ない。助けるか」
白く木目細かなデコに右手を当て、パールは苛立ちを浮かべた顔で呟く。彼女が立ち上がった時。
「ご、ごめんなさいい。勘弁してぇ」
真っ青な顔のまま机を叩いたトリーさん。彼女が両手で立てた小さな音に、周囲の同級生が驚く中。赤く腫れた手に息を吹きつつ席を立つ。そして俯き加減に教室を飛び出す。
唖然とする取り囲んでいた男子たち。始業ベルが鳴るまで彼女は帰って来なかった。
「さっきはごめんなさい」
先生より先に戻って来たトリーさんが教室のドアの前で囁く。頭を下げた彼女に、僕の横の女神が助け船を出す。
「女の子は優しい男子が好ましいものだよ」
するとパールは僕へと視線を移し、うっとりとした表情を浮かべる。教室の意識は僕へと移り、満たされた殺意からゴーグルの警報が鳴り響く。
「ほら先生が来たぞ」
警報に騒然とする同級生をパールが鎮め、先生が到着した時には警報も止んだ。
おそらく次の休み時間には、僕が登校時に予想したような穏やかな朝が、トリーさんにも訪れるだろう。




