厳しさは優しさがために
最初はいつも通り腕立て伏せ五十回。そして腹筋。マラソン二周。フレアさんと同じ訓練内容をこなす。女の子は腕立てと腹筋二十回とマラソンを一周。僕は何度も繰り返していることで、息を切らさずに終えた。初回と比べると時間的にも相当早い。
先に終えて他のみんなを待っているところにゴランさんがやって来た。右の眉を上げ僕を見下ろす。
「流石に慣れてきたということだな。なら、レンくんにはスクワット五十回追加しよう。訓練場を回る数も十周に増やそうか」
いきなりの大量追加。厳しくなると言ってはいたが、想定の範囲を超えている。だけど強くなると誓ったからには、率先して力を付けるんだ。体を鍛えることはきっと、無駄にならないハズ。
ゴランさんの指示に従いスクワットを始める。すると五十回終える前にキハが戻って来た。
僕の動作を眺めていた彼は、ゴランさんが指示を出す前に僕の横へ。そして二人で一緒にスクワット。なんだか青春の一ページって感じ。
五十回終えた僕は、マラソンのために訓練場の外へ。すると、すれ違うようにパールが戻って来た。もう一度出て行こうとする僕を見て、彼女に驚きの表情が浮かぶ。
「僕は今から十周追加だって。日暮れまでに終わると良いんだけど」
日没まではおよそ三十分。十周だと五キロメートル強だろうか。いや。速度よりも走り続けられるかが問題な気がする。
「私も一緒に走る。だから頑張ろう」
漲る活力。燃え盛る闘志。リセットされる今までの疲れ。パールの微笑みと言葉は、僕の身体を癒す魔法。
「うん。ありがとう。その言葉だけで、僕はあと十周走れるさ」
一人で十周走ろうとした僕にパールは一周だけ並走してくれた。
十周走り終えた僕。笑う膝を叩きながら仲間の元へと戻る。するとみんなはフレアさんとの模擬戦の最中。フレアさんは今のパールたちに合わせ絶妙な手加減をしている様子。
「十周に三十分弱か。明日にはもう少し早く終われるだろうし、今日よりは体力も残っているだろう」
みんなの戦いを眺めていた僕にゴランさんが話す。今の彼の表情は優しい。
「明日は君のメニューが終わり次第、全員とフレアくんとの組手だ」
口を閉じたゴランさんは僕と一緒にみんなの姿を見つめる。僕から見える横顔は、まるで孫を見守るお祖父ちゃんのよう。
ゴランさんの訓練は、確かに厳しいのかもしれないが、決して無理難題を言っている訳ではない。みんなへの眼差しから感じ取れる愛情が、訓練の厳しさの理由。
「今日はこれまで。明日の訓練も楽しみにしておる。みな気を付けて帰るように」
厳しい表情に戻ったゴランさんが終わりの合図を出す。彼の横には後ろで手を組むフレアさん。僕たちは二人の師匠に頭を下げると揃って訓練場を出た。
厳しさを増した訓練。しかし誰も文句を言わないどころか、テレフープの中はゴランさんの渋さに盛り上がる女子。いぶし銀の良さとかなんとからしい。
先週よりも遅れたことで、僕とパールは全員を家まで送り届けた。きっと今日から毎日続くのだろう。僕らが平和を取り戻すまで。




