二人きりの楽園
随分歩いた。僕とパールは木の群れの中にいる。公園に点々と生える木などではない。僕たちがいるのは、本物の森の中。
「陽の光が木で遮られて暗くなって、森の外よりも涼しく感じるね」
木漏れ日がパールを照らす。元から周囲とは一線を画す彼女の存在感。薄暗い森の中で光を浴びると、まるで別世界の存在のよう。
「実際ここの上にあるのは太陽だからな。誰もいない島に緑を増やして、そこを家の中と繋げたんだ。だから光の届かない所を涼しく感じるのは正解だよ」
別世界の存在と思わせるのは、美貌だけではない様子。得意気に話している表情は、ただただ可愛らしいものなのだけれど。
家の玄関がテレフープのような物なのか。なんとなくは彼女のしたことを理解できるのだけど、解説しろと言われても不可能。まさしく神の御業。
「ここの先に開けた場所があるハズ。そこで休憩しながらお弁当にしようか」
森の中を歩くこと数十分。そろそろ疲れも感じ始めた頃。右手の人差し指を前方に向けたパール。確かに目を凝らすと、光が強く差している場所があるような。
近付くに連れてパールの指した場所の全貌が明らかになる。色とりどりの花が咲き誇る楽園のような情景。温かい陽射しを受ける花畑の中央には、お弁当を食べるためにあると言わんばかりのスペース。
「これもパールが作ったのか。凄い」
文字通りの神業に僕は脱帽するしかない。けれど、一つ気付いた。僕の願いを聞いた時に目の前の楽園を作ったのだとしたら、最初からパールは雰囲気の良い花畑で二人で手作り弁当を食べようとしていたということ。
気付いたけれど、口にするのはイケナイと直感が告げる。パールの照れ顔よりも笑顔の方が。何より彼女が喜んでくれている状況が僕にとっても一番の幸せ。
彼女のお弁当を開ける。可愛い形に切られたウインナー。アスパラを巻いたベーコン。激しい運動を控えた僕に栄養を付けさせるためか、肉類の多いお弁当の中身。出来立てのような温かさで美味しそうな匂いまでするのは、お弁当箱がパール特製の逸品だから。
「作った料理をそのまま持ち運べるお弁当箱も凄いけど、やっぱりパールの料理が上手なのが美味しさの一番の秘訣だよね」
炊事。掃除。洗濯。全てがパールの生み出したマシンの力で、人の手を使わずにできること。しかし、人が思いを込めて行った物事には、やはり特別な何かを感じる。
「料理を未だに作る人が多いのは、自分が心を込めた料理を、レンみたいに美味しそうに食べてもらえると嬉しいからなんだろうな」
最近は父さんと母さんや友達と食事をすることが多い。だけど二人きりの島でなら、人目を気にせずに彼女の愛情を満喫できる。
「最近はこの前の夜中みたいに夢中で食べることがないなって少し寂しかったんだけど、我慢してたんだな」
彼女に言われて自分の品のなさに気付く。だけど、二人きりのときにはいいんじゃないだろうか。




