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原初の星  作者: 煌煌
第十一話 風
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僕らのニューノーマル

 キハを交えての最初の訓練も、前回と同じで腕立てと腹筋とマラソン。しかし初日のキハと、今日が三度目の僕とでは回数が違う。彼は腕立てと腹筋は二十回ずつ。マラソンは一周で終わりだ。先に終えたキハは、訓練場の外を走る僕に嬉しそうな顔でピースサインを出す。僕は手を振り返しながら、彼が特訓に参加できて本当に良かったと思う。

 子供の頃から何をするにも一緒のキハ。今していることは命さえ失う可能性もある戦いに関係していること。楽しいなんて感情とは本来はかけ離れているハズ。だけど、キハと一緒だと楽しいと思えてくるから不思議。彼が訓練に参加したいと言った理由も、きっと同じだろう。




「では今日はこれまで。学校が休みの日には模擬戦をしようと思っていますので、皆さんそのつもりでお願いします」


 マラソンを終えた僕にフレアさんが予定を教えてくれた。僕とキハ対フレアさんなら、なんとか勝負になるかもしれない。


「ありがとうございます。また明日もお願いします」


 僕が答えるより先に、キハが口を開いた。よほど参加できたのが嬉しかったのだろう。下げた頭を戻した彼の顔が、いつにも増して輝いて見える。

 訓練を終えた僕とキハに、パールたちが駆け寄って来た。自分の彼女に運動後の汗を拭いてもらう。何とも形容しがたい充実感。


「平和になってもこの習慣は続けても良いかもしれない」


 僕の呟きにパールが笑う。


「レンがして欲しいなら、汗くらいならいくらでも拭くぞ」


 優しく柔らかな笑顔とタオルが僕を包む。休日に待つ厳しい訓練も、彼女の癒しがあるのなら、乗り越えてみせる。




「お熱いところ申し訳ないのですが、私とアグルさんを送っていただけますか?」


 一瞬他の人の存在を忘れていた。もう空は赤く染まり、寄り道せずに帰りましたとは言えない時間。二人の世界から僕を引き戻したイオンさんの言葉通り、彼女たちを送らなければ。


「そうだね。もうすぐ日も暮れるし、送って行くよ」


 彼女に返事をした僕。そして帰る前に改めてフレアさんに今日のお礼を述べた。




 フレアさんに見送られテレフープに入る。暗い道中でも六人もいると賑やか。話ながら歩いていると、あっという間に出口に着く。


「アグルさんのお家と私のお家ってこんなに近かったのですね。良ければ明日から一緒に登校しましょう?」


 アグルさんの家の前に着いた六人。嬉しそうに話すイオンさんによると、彼女の家は歩いて五分ほどの距離だと言う。


「私はお姉様と登校したいのですが。友情を育むのも素晴らしいことね。では明日からはお姉様の騎士であるこの私が、イオンさんを学校まで送り届けましょう」


 相変わらずアグルさんはパールを見つめて話す。いくらパールを眺めていても、飽きることがないのは僕も同じ。彼女の行動は理解できる。話している相手と目を合わせないのは問題だけど。




 二人と別れて僕らの家の前に着いた。キハは今も嬉しそうな顔。興奮気味の彼は、次の休日が待ちきれないらしい。


「明日は負けないために作戦練ろうな。じゃあまた明日」


 キハは右手、セイラちゃんは左手を振って夕日に消えて行く。ほとんど沈んだ夕日は、二人の姿が見えなくなると同時に、自身の姿も隠すのであった。


「今日もお疲れ様。明日も明後日もその次の日も修行なんだよな? 私のために頑張ってくれているとは分かってるけど、ワガママが許されるなら、またデートに連れて行って欲しいな」


 手を繋いで帰った二人を見て羨ましくなったのだろうか。パールは憂いを帯びた目を僕に向けた。


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