パールの力
「えーっと。アグルさん? パールちゃんのファンの人なら私たちが二年生って知ってるかと思うんですが」
引き攣った笑顔でセイラちゃんが尋ねる。しかしアグルさんは意に介さない様子。依然としてパールの顔を見つめたまま話す。
「パールお姉様はお姉様って感じなので年下とかは気にしてはいけないのです。そしてお姉様のご友人は私には目上の存在。だから、敬語で話されるのは不本意です」
ようやくパールから視線を外した。しかし自身の発言を肯定するかのように頷くと、またしても彼女の視線はパールの元へ。
妖しく眼鏡を光らせているアグルさんに、パールは警戒心を示し続けている。というよりも威嚇しているような。
「あぁお姉様。どんな表情も素敵です。全部写真に収めて美術館に展示しましょう」
気のせいだろうか。僕も以前パールに同じ感想を抱いたような。いや気のせいだろう。
昼休みも間もなく終わる。アグルさんのことは気になるが、パールが落ち着かなければ不思議な存在のままに終わるのだろう。
「そろそろ教室に戻ろうか」
立ち上がろうと足に力を入れた。そして、鳴り響く警報。まさか昨日の今日でもう現れるとは。しかも学校になんて。
とりあえず校舎にいては他の生徒に危害が及ぶ。僕だけでも広い校庭に降りなければ。
「みんなは安全な所にいて。なるべく校舎からは離れておくから」
立ち上がってイメージソードを取り出す。すると剣を見たアグルさんに制服の襟を掴まれた。首が絞まって戦う前に気を失いかける僕。
「ねぇねぇ何の警報音? その棒みたいなのは何に使う物なの?」
今朝パールを見た時のように目を輝かせているアグルさん。襟を離してくれる様子はない。答えるのにも首が絞まっていては喋れないというのに。
「ほらルシ。レンを離してくれたらルシとも友達になるぞ」
放された瞬間に僕を包み込むパールの鎧。プレートアーマーなんかを想像していたが、まるでレーシングスーツ。想像していた物より体にフィットして動きやすい。見える範囲は全身銀色。しかし肩から腕の外側を通って手首まで伸びている赤く光るライン。僕に似合うと彼女が言っていたカラーリングなのだろう。
一度良く見たいけれど今は時間がない。敵を倒した後のお楽しみに取っておこう。
「じゃあ、行ってくるね」
僕は屋上から飛び降りた。鎧を着ていても僕を包む風の音が聞こえる。今の速度で地面と再会するのはマズい。剣を下に伸ばして落下を止めた。そして校庭の中央で仁王立ちする敵の前に降り立つ。
「なんだその格好? そんなもんで俺の加速を止められると思うなよ」
既に剣を出しているからだろうか。奴は早くも飛び跳ねだし、ステップによって起きた衝撃波が僕に襲い掛かる。
「二回目の復讐の幕開けだ」
またしても消える敵。
衝撃波が起こす轟音は聞こえるが、振動すら感じない。そして纏っている鎧は軽く、着けているのも忘れそうなほど。
きっと奴は前回と同じように後ろに現れるハズ。今回は剣を使わずに脚に力を入れて勢いを付けて振り向く。想像通り背後に現れた敵が、振り向き終えた僕に昨日と同じ踵落としを繰り出す。弾き飛ばされる僕の体。本当なら一撃で死んでいるのだろうか。
けれど何の痛みも感じない。今と同程度の攻撃なら何発受けようとも立てる。
「僕を守ってくれるのは鎧だけじゃない。そして悔しい思いをしたのはお前だけでも、僕だけでもない。みんなのためにも、二回目なんてやらせはしない」




