生きるための戦い
「しまっ」
とりあえず気絶させて何のつもりか白状してもらおう。僕は渾身の突きをフレアに押し込む。
「なんてね」
身動きできないハズの体が宙を舞う。僕のときとは違い、自分の意思で華麗に。
そして渾身の一撃を躱された僕は、フレアの前で無様に隙を晒す。彼は着地の後でもう一度高く跳ねると、剣の重みと自身の体重を乗せた一撃を僕に見舞う。
死という言葉が頭を過る。
パールを一人残して。たった一人で死ぬ訳にはいかない。
僕の切っ先は地面へと向いている。ならば回避方法は一つ。思い切り刃を伸ばすこと。
「えぇっ。ズルいでしょう」
僕の剣にフレアの剣が当たる。けれど僕は当たる寸前で刀身をパージした。反動を活かす戦法。今度は僕がやる番。
慣性によって僕の右手は後ろに向く。いま剣を伸ばせば隙だらけの奴に一撃を喰らわせることができる。
「いっけぇー」
体当たりするつもりはない。またパージ。見舞うのは僕の渾身の。最大限の一撃。
着地と同時に僕の剣は空を切る。目の前にフレアの姿はない。つまりは後ろ。
「はい。ここまで。到底素人とは思えない体捌き。武器との相性も抜群。しかし、いかんせん筋力が足りないのと、窮地に追い込まれるまでの判断力が鈍いです」
僕の顔スレスレで止められた刃。後ろからは暑苦しい声が響く。
「全部冗談ですか? いくらなんでも酷いんじゃないですか」
苛立ちから思ったままをぶつけた。明るく話していた彼が、とても同じ人物とは思えないような低い声で答える。
「実戦はもっといきなりです。レンさんの事情なんてのに敵は構ってくれません。むしろ貴方が不調なときを狙ってくるでしょう。だから大切な人を守りたいなら。切り替えるためのスイッチを持たなければなりません」
今までのフレアさんの言葉とは違う。何らかの実体験による説得力。悲しそうな声を出す彼の顔を確かめようと、僕は振り向く。
「だからこれから共に鍛えていきましょう」
振り向いた僕の目には、いつもの彼の顔が映る。何だか気の抜けた僕がフレアさんに笑い掛けると、一緒になって笑ってくれる彼。
「さっきは失礼なことを言ってすみません。フレアさんが良ければ、これからも鍛えてくれますか?」
僕の問いに、フレアさんは笑顔のままで答える。
「もちろん。光栄です。いずれレンさんは、ご自身でも想像できないほどの英雄になると自分は信じてますから」
何故か僕の目からは涙が伝っていた。
一日目からハードな稽古だったが、突然の模擬戦だけで訓練は終わらない。立ってるだけでも辛い身体にフレアさんが喝を入れる。
「そんな調子じゃ大事な人たちは守れませんよ。今日は腕立て三十回。腹筋三十回してから帰りましょう」
鬼コーチを誕生させたかもしれない。
昼前から開始した特訓は夕方まで続いた。
「明日からは学校の帰りに友達と来てくださいね。一人で来るのは今日だけで良いです」
最初の模擬戦で本気を出させるために仕込んだんだろうな。ありがたい話だ。
「分かりました。また明日もお願いします」
フレアさんに笑顔で応えて頭を下げる。そして、出口に歩を進めた時。
「レンさんにとって、これからが生きるための戦いです。自分も微力ながらお手伝いするので、絶対に生き延びましょう」




