特訓開始
今日は昨日と違って、目覚ましの音で目を覚ます。目の前の天使。いや、神様は僕より先に瞳に光を灯している。
「おはよう。今日はすぐに稽古に行くんだよな。本当に付いて行ったらダメか?」
まるで一人での留守番を言い渡された子供のような目。僕の心は張り裂けそう。けれど初回だけは二人きりというのがフレアさんの条件。頼んだ僕の方から反故にはできない。
「明日からはパールも一緒に行こうね。もしパールの身に危険が迫れば、すぐテレフープで僕の所に来て良いから」
彼女の頭を優しく撫でる。もしかしたら最初と比べると慣れてきたのかも。だけど愛情は日増しに大きくなる一方。今日一人で出掛けるのも、彼女のためになることだから。
「気を付けて。忘れ物はないか? 小まめに連絡くれよ?」
パールまで僕を忘れ物の常習犯みたいに。
彼女と一緒に家にいたい気持ちを家に置いて、僕はフレアさんの指定した場所へと向かう。警察署の横の建物。戦闘訓練なんかが行われる場所らしい。着くまでに敵襲がなければいいけど。
「約束通り一人で来たんですね」
無事に訓練場に辿り着き、大きな門をくぐり抜けた僕。フレアさんが仁王立ちで話し掛けてきた。
「僕からお願いしたんです。唯一の条件だと言われれば従いますよ」
僕の言葉にフレアさんは不敵な笑みを浮かべる。訓練場というよりは闘技場のような雰囲気の建物が、中央に立つ彼の妖しい笑いを引き立てているような。
「じゃあ早速腕前を見せてもらいます」
言い終えた彼が武器を取り出す。二メートル近くはあろう長さの鉄剣。
僕が武器を想像する前に飛び込んで来る。相当な距離があったのに既にフレアさんの武器の射程圏内。大きな鉄の刃が僕を捉えた。
咄嗟に出せるのはやはり鉄剣。フレアさんとは違い、重みのない武器でも彼の攻撃を防ぐのが精一杯。ギリギリで僕の体とフレアさんの剣の間に潜り込ませた。
鉄同士のぶつかり合う音が響く。僕の身体は音と共に宙を舞う。弾き飛ばされたのだ。けれどフレアさんの一撃は相当な大振り。次の攻撃までに体勢を立て直す余裕はある。
しかし、空中の僕を捉えるもう一撃。目の前の彼は自身の大振りの反動を利用して回転し、剣の重みを活かした二撃目を繰り出したのだ。
「この建物の中には僕たち二人だけ。そして彼女さんは連れて来ないでという僕からのお願い。普通疑問に思いますよね?」
フレアさんと目が合い、僕の背筋を悪寒が走る。もしやスパイは彼なのか。
「けどこんな所で死ぬ訳にはいかない」
二撃目で更に高く上げられた。無防備な僕を三度目の攻撃が襲う。
インパクトの瞬間。僕は剣を急激に重い物だと想像した。すると飛んでいた体は地面に着き、僕の頭上を刃が掠める。
危機一髪。だけど僕の目の前には、がら空きの体。




