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原初の星  作者: 煌煌
第七話 生きるための戦い
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初デートをもう一度

 最初の目的地。図書館に着いた二人。場所にそぐわない息を切らし座り込む僕たちに、周りの人からは冷ややかな視線を送られる。


「ここが図書館かぁ。私の知らないこととかも調べられるかな?」


 パールの楽しみは知恵比べらしい。いくら図書館でも今回の相手には勝てないだろう。本来なら世界の全ての情報は彼女の下に集まるのだから。


「ゆっくり涼んで休もうね。もうくたくただよ」


 走っても二日前よりは息切れが酷くない。一度に走る距離も伸びた。だけど十分も手を繋いで走ると汗だくで座り込みたくもなる。走ったことだけが理由かは分からないけど。


「うん。私もドキドキしたよ」


 歯を見せて笑う彼女は、女神というよりも小悪魔と言った方が似合う。




 本を読むパールを見つめて数時間。時計に目を遣ると五時前になっていた。僕は一頁も捲られていない本を棚に戻すとパールに話し掛ける。


「そろそろ海を見に行こうか。随分熱心に読んでるけど、何読んでるの?」


 僕が飛んだ日。聞いたことのない本だな。


「死んでも誰かの人生を変えることはできないけれど、今が辛くても生きていれば良いことがあるかもしれない。みたいなことが書いてる恋愛小説」


 紙の本だけでなく電子端末で古いデータを読むこともできる図書館。無名の誰かが書いたものも残っている。


「紙の本には知ってる内容が多かったけど、電子端末のは色々あって飽きないな」


 囁き声で話す彼女は端末の電源を落とす。


「では次の場所に連れていってくれるかな」


 左手を差し出すパール。僕は彼女の手を掴むと優しく引き上げた。




 図書館の外には海岸が広がっている。今回は走らずにゆっくりと歩いて海岸に降りた。塩気を感じる海の匂い。人間以外の生物が極端に少ない世界。海を泳ぐ魚は希少な存在。


「夕焼けを恋人同士で眺めるのって素敵」


 パールらしからぬ口調に僕は驚く。ほとんど人のいない海辺。浜までの緩やかな坂道に僕たちは腰を下ろしている。確かに良い雰囲気なのだけど。


「さっき読んでいた本の中に書いてたんだ。女の子が言うと男の子が喜ぶ台詞って」


 イタズラそうに笑いながら話す彼女。夕日に照らされた金髪は赤く染まるのかと思っていたが、暗闇でも輝いて見える彼女の髪は世界の理の外にあるらしい。金色の微笑みが僕の胸を踊らせる。


「可愛いけど。そのままのパールが僕は良いかな」


 僕の心臓が次の敵襲までに限界を迎えそうだから。




 僕の言葉を聞いた後で俯いて話さなくなったパールを連れて家に帰った。


「おかえり。僕の可愛い子供たち」


 父さんが出迎えてくれて、パールに夕食を出してもらう。家族四人で食卓を囲い、彼女と二人で眠りに就く。

 彼女が加わって喜びが増した家。そして世界を守るために明日からの修行を頑張ろう。

 眠るパールの顔を見つめ、繋いだ手の温もりを感じ、不安を拭い去り決意へと変えて、僕も彼女のいる世界へと向かう。


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