エレバーの二人
パールのゴーグルの索敵範囲が狭い訳ではない。敵の声が規格外に大きいのだ。
百メートルくらいは離れていそう。全速力で駆け寄る敵。あっという間に接近したかと思うと、勢いを活かした蹴りを繰り出す。
「素人相手に不意打ちで勝っても不名誉だからな。これなら正々堂々とした先手だろう」
二度も負けているのに大切にしているらしい名誉と釣り合うような強烈な蹴りだが、おそらく当てるつもりはなかったのだろう。奴の足は僕の顔の前スレスレを掠める。
「構えてからじゃねぇと不意打ちになるだろうからな」
三度目。いや、学校内を含めたら四度目の顔合わせ。黒い服でイメージチェンジしていても、いい加減捕まえて見飽きた顔とはおさらばしたい。
「名誉に拘るなら負けた後で逃げるなよ」
言い切ると僕は武器を構える。両手でしっかりと握り締めると、切っ先を敵に向けた。
「良いだろう。まぁ負けないけどな」
相手も僕と同じ構え。スピード勝負か、武器の強度が物を言うか。なんにせよ正面からでは分が悪い。
近くにいた公園を歩いていた人たちは既に遠くへ避難している。だから僕たちの周りには誰もおらず。ただ嫌な緊張が流れるのみ。
相手が姿勢を低くした。来る。
「こっから先は手加減無用だ」
初戦の一撃目と同じ鋭い突き。しかし速度は比べ物にならない。目で追えても捌ききれるだろうか。いや、あえて危険を冒す必要はない。搦め手を使おう。
僕は地面に剣を突き刺す。そして、敵を目掛けて土を舞い上げた。
「ぶぇっ。てめぇズルしやがって」
隙を作れさえすれば御の字と思って採った作戦。隙を作るどころか敵の目に土が入り、開くこともできない様子。誰もいない所を剣で斬りつけている。
「武器を構えたら不意打ちじゃないんだろ」
敵の背後に回り込む。そして水の刃をお見舞いした。前回の敵と同様に黒衣の下は鎧。対処法も同じ。
「ぐぅっ。ちき、しょうめ」
卑怯だと言われても僕だって死ぬ訳にはいかない。仕方のないことなんだ。
「約束通り捕まえさせてもらうぞ」
目の前で伸びている男に手を伸ばす。もう少しで捕まえられると思った瞬間。鳴り響く警告音。そして僕を襲う暴風。
「こんな奴でもウチの副隊長なんだよ。連れて行かれたら困るな」
もはや目に見えるほどの存在になった風の中。一人の男が現れた。
「やっぱりお前も敵だったのか」
気を失っている男と初めて会った時。奴は二人でいた。今、目の前に現れた男と。
「まさか俺のチカラまで見せることになるとは。学校で見た時にはただの学生だと思っていたのにな」
男は口を閉じると右手を高く上げた。
「どうやら時間切れらしい。この国の警察も捨てたモンじゃないね」
高く上げた右手を前に突き出す男。男の動きと連動するかのように暴風が僕を押す。
悠々と歩いて倒れている男を抱き上げ、空へと飛び上がった新たな敵。
「必ずまた来る」
学校ではただの不良生徒だと思っていた二人組。最初の男は派手な黄色の髪。そして今の男は巻き起こした風と似たような薄い緑。
「レンさーん。ご無事ですかぁ!」
ディス曹長が僕たちに大きく手を振りながら駆け寄る。彼の部隊が来なければ、僕は今頃やられていたかもしれない。




