特別なハズの午後
学校や仕事があるといっても、お金の概念はない。人が平和に暮らすために必要なことを教えたり、治安の維持をしたり。
機械があるというだけで、他国からの侵攻を受ける。僕の住んでいる国は他国にも機械の恩恵を与えているというのに。
学校で教わるのは歴史がほとんど。かつて起きた争いを知ることで、同じような過ちを繰り返さないため。
一日の授業が終わり下校時間。帰りも三人で一緒に帰る。
「今日ってレンの誕生日だよな」
キハに言われて思い出した。今日が特別な日だということを。
「すっかり忘れてた。父さんも母さんも何のお祝いもしてくれないんだよなぁ」
誕生日プレゼントは機械に特別な願い事をする権利。個人から何かを贈るなんてことは稀である。全くない訳ではないが。
「忘れてたってことは何をお願いするのかも決まってないってことか」
彼の言う通り。今から機械の所に着くまでに考えなければ。
「けど、特に欲しい物もないんだよなぁ」
一年に一度、欲しいものを願える日。何も頼まないなんて勿体ないことをするつもりはない。僕の欲しい物。僕の願い事。
ふと、休み時間の出来事が頭に浮かぶ。僕は一人でトイレに向かっていた。
「おっ、仲良し夫婦のオマケじゃん」
僕に聞こえるか聞こえないかという程度の囁き声。本人に悪気があるのかないのかは知らないが、当然いい気はしない。
「カップルの横に一人でちょこんといてさ」
振り返ろうとした僕の耳に別の人物の声が入ってきた。
「お前止めとけよ。アイツの親って」
廊下の壁に背中を着け、いかにも不良ですと言わんばかりの派手な格好をした二人組。僕の視線に気付くと、片方は睨み付け、もう一方は睨んでいる男子を連れて僕から離れていった。
「あの二人の邪魔してるって言うのかよ」
僕に彼女がいれば二人の邪魔にはならないのだろうか。キハもセイラちゃんも僕にマイナスな感情は持っていないとは思う。少なくとも僕の中では。けれど今の関係のままだと将来的には親友たちの邪魔者になるかも。
高校三年生の夏休み。雰囲気の良いデートスポットにキハとセイラちゃん。そして僕。
高校を卒業して数年。セイラちゃんにプロポーズの言葉を向けるキハ。嬉し泣きする彼女。そして僕。
歳を重ね病院のベッドの上。子供や孫たちに囲まれ、セイラおばあちゃんに手を握られ息を引き取るキハ。悲しむ親族。そして僕。
学校のトイレの中。一人で想像していた僕の目からは、温かい雫が伝っていた。
学校での出来事から欲しいモノは思い付いたが、人や機械に頼んで貰うモノではない。僕自身の魅力を磨いて手に入れてこそ意味があるハズ。
「レン。おーい。もう着くぞ」
ボーッとしていた僕の目の前で振られる手のひら。キハの手。
「結局願い事決まってないや」
二人に苦笑いを向ける僕。
「難しく考える必要ないんだから。何も思い付かないなら最悪好きな食べ物とか。いや、それも勿体ないかなぁ」
やはり親友たちから邪魔者だとは思われていないらしい。セイラちゃんも真剣な表情で僕の願い事を考えてくれているのだから。
「ありがとう。おかげで何を願うか決まったよ。ありきたりなヤツだろうけどね」