二人の夜
二階には僕の部屋と物置しかない。だからパールが階段を上がって行ったということは僕の部屋で寝るということ。昨日までは歯を磨いた後は眠るだけだった。だが今日からは朝と夜の二回お風呂に入ろう。
いつもよりも念入りに身体を洗った。汗の臭いがして彼女に嫌がられないために。二階への階段が緊張から長く感じる。
僕の部屋のベッドは当然一つ。二人で寝るには狭いサイズなので身を寄せて眠る僕ら。最初は緊張からお互いに背中を向けて寝ていたが、僕らはもう恋人同士。恥ずかしがることも緊張する必要もないハズ。勇気を出して彼女の方を向くと既にパールは振り向いていて。優しく微笑む彼女の手を握り、僕も微笑み返す。そして。
いけない。いくら恋人になったからといっても相手は神様。階段を上りながらしていた妄想の中でも自分の願望を押し付けては駄目だろう。
期待と不安と緊張。その他大勢と共に、落ち着く場所の扉を開く。殺風景な僕の部屋。鉄の中に敷かれたカーペットの上で安らいでいる感情の源。僕の。いや、僕だけの女神。
「遅かったな。お風呂にでも入ってたか?」
片目を瞑り何でもお見通しといった表情のパール。柔らかい絨毯の上でうつ伏せていた彼女。腰から起き上がるとベッドの上へ。
「たまに心を読まれてるんじゃないかと思うときがあるよ」
自分の緊張を解そうと冗談を言いながら部屋に入る僕。自室なのにまるで侵入者のような気分。
「あながち間違いじゃないな。レンのことは小さい頃から良く見ていたから。他の人の考えてることよりは分かりやすい」
僕のことを誰よりも理解してくれているだなんて嬉しい! と素直に喜べないのは何故だろうか。
「そんなことより、昨日も今日も色々あって疲れてるだろう。もう寝よう」
彼女はベッドに潜り込むと掛け布団を捲り上げた。僕に入って来いと言うのだろう。
「お、お邪魔しまぁす」
動く度に軋む音がしそうなほどにぎこちない足取りでベッドの中に入った僕。
変な動きをしていた僕の様子を見てパールが軽く笑う。自分でも変な動きの自覚があるから笑ってくれる方が助かる。
彼女の笑い声からすると僕の方を向いて寝ている模様。壁際で右向きに眠る彼女。緊張から落ちるギリギリの位置で寝ている僕に、背中から腕を回してきた。パールってばなんて大胆な。
いや違う。僕の身体に触れる腕。彼女の腕は、震えていた。ずっと気丈に振る舞っていたパール。だけど特別な能力以外は見た目通りの女の子。自分の知らない兵器が起こしている事件。不安になって当然だろう。
回されている腕を持ち上げた。そして、彼女の顔を見ながら僕も眠りに落ちる。
二人手を握り合って。
「ありがとう」
僕の緊張や不安を吹き飛ばすには、彼女の感謝の言葉だけで充分。




