新しい敵
パールはキハたちに任せて僕は店を飛び出した。道路を挟んだ向かいの建物の更に先。立ち上る煙が見える。僕は走って向かう。
逃げ惑う人の流れを掻き分けて進む。現場に近付き、焦げ臭いにおいが鼻を刺す。次の角を曲がれば煙の上っていた辺り。僕の周りにはもう人影はない。念のため前回と同じ武器を出しておこう。
剣を両手で握り、角を飛び出した。
「レン・ドレイグを知っているか?」
燃え上がる炎の中。ガスマスクのような物を着けた男が、怯えて腰を抜かした女の子に手を伸ばしている。救助の人にしては早い。しかも不気味な格好。警察や救急隊とは明らかに違う。間違いなく。敵だ。
「止めて殺さないで。まだ私したいことが山ほどあるんです。彼氏も欲しいし機械にどんな仕事が適性あるとか言われたいし」
抜かした腰を引き摺るようにして女の子は後退り。
「知らないなら俺もお前のことは知らない」
僕はもう一度走り出した。男は自分の体よりも長い剣を振り上げる。今のままじゃ間に合わない。今の。今のままじゃ。
「いやぁー」
女の子が俯いた時。貫かれたのは男の体。僕は自分の位置から男まで届く刃をイメージしたのだ。目の前で人の命が奪われるなんて僕には耐えられない。だから今回は昨日とは違って手加減する余裕はなかった。
女の子の元へ駆け寄ると僕は手を伸ばす。
「ほら、立って逃げて」
顔を上げた彼女。今日学校で僕のことを英雄の息子と呼んだ女の子だ。
「私。貴方に酷いこと言って」
僕の手を掴もうか悩んでいる様子。今は悩む時間なんてないというのに。
「そんなこと良いから逃げて。早く」
僕は手を掴むと強引に起こした。何度も振り返る女の子。よろめきながらではあるが、僕の曲がってきた建物の角に辿り着く。
「見付けたぞレン・ドレイグ」
燃え盛る炎の中。黒い衣装に身を包んだ男が立ち上がった。
「俺にはその武器は効かんぞ」
貫いたハズの体には傷一つない。男が着ている服にすらも。本当に効果がないのならまた新しい武器を考えなければ。
「お前の能力は報告によって知っている。近接武器を自在に出せるのだろう」
武器のことまでご存知か。でも無駄だとしても、簡単にやられるのは格好悪いよな。
僕は鉄剣を作り出すと切っ先を敵へと向けた。そして刀身を敵目掛けて打ち出す。しかし相手は手に持つ大剣で弾き落とした。
「無駄だと言ったろ。機械のことを話せ。そうすれば痛い目に遭わなくて済むぞ」
前回の僕の台詞。皮肉のつもりか。
お断りだと言おうとした瞬間。身を屈めた男が踏み込んで来た。目では追えているのに身体の反応が追い付かない。巨大な剣で斬られれば、待っているのは死。
衝撃を受けた僕は炎の方向へと吹き飛ばされた。斬られずに蹴られたらしい。生き長らえたが、次はないだろう。
「最後のチャンスをやろう。いや、やっぱり死ね」
ゆっくり近付いて来た男。振り上げられた大剣。




