ダブルデート
帰り道。キハたちとダブルデート。今まで毎朝一緒に登校して、学校が終わってからもよく三人で帰っていた。けれどキハとセイラちゃんは付き合っているので、二人で出掛けることも良くある。デートとなると僕も一緒に行く訳にはいかず、二人のデートスポットなど知る由もない。夜景が綺麗な高台とか穏やかな空気が流れる公園とか、なんとなくのイメージならあるのだが。
「セイラがダブルデートって言ってたけど、学校でもニュースでも不要不急の外出は控え家にいましょうって言ってるしな」
キハが僕に話し掛ける。残念そうな表情の彼は顔を近付け、他の二人に聞こえない程度の声で囁く。
「本当はレンに彼女ができたらダブルデートしたいねってセイラと話してたんだけどな。普通の状況じゃないけど。おめでとう」
他のクラスメイトとは違い祝福してくれるキハ。彼が僕の親友で良かった。本当に。
喜んでいる僕の後ろからセイラちゃんが声を掛ける。
「キハも危ないとは言ってたけど、帰り道の途中で甘いもの食べるとか、公園で足を休ませるくらいならしても怒られないでしょう」
彼女の言葉にパールが何度も頷く。キハも僕も異論なんてない。僕たち四人は近くのカフェへと入った。
カフェには働く人はいない。調理も配膳も自動で行われるからである。席に着くと、欲しい物のボタンを押す。するとしばらくしてから頼んだ物が小さめのロボットによって運ばれてくるのだ。
「レンくんの家で話を聞いてた時には内容が衝撃的であんまり言えなかったけど。改めて何度見てもパールちゃんて綺麗。嫉妬心とか微塵にも湧かないくらい」
落ち着いた木目調の店内で、セイラちゃんが蕩けた顔でパールを見つめる。学校で女子にも取り囲まれたように、パールの美しさは男女関係なく人を魅了するらしい。キハも同じだろうか?
「間違いなくとてつもない美人だよな。けど俺にはセイラが一番だ」
左手で頬杖を突いてパールを見つめていたセイラちゃん。キハの愛の囁きに頬を赤らめると誰もいない方向を向く。
すると、二人の様子を眺めていたパールが軽く笑う。
「こういう幸せが一番大切ってことだな」
僕を横目で見つめるパール。何か伝えたいことがあるのだろうか。
甘いイチゴのパフェを食べるパール。彼女の口についたクリームを拭くセイラちゃん。二人の様子を眺める僕は、改めて彼女ができて良かったと思う。ふとキハを見ると、僕の視線に気付いたらしく力強く頷いている。
昨日何度も崩れかけた平和。僕がパールと守ったのか。なんて思うと、怖い思いをしてまで戦ったのは無駄ではなかったと思える。
「次は公園に行こう」
全員が食べ終え、店を出ようとした時。店の外で爆発音。音に少し遅れてやってきた衝撃に、カフェの窓ガラスが揺れる。
「レンの二つ目の願いを守りに行こう」
パールに肩を叩かれた。けれど今日はキハたちもいる。なら僕と一緒に行くよりも、三人で待っていた方が安全なのでは。
「今は僕一人で行ってくる。パールを奪われたり傷付けられたくないから。だから。ここで待ってて」




