君と屋上へ
パールを連れて屋上まで逃げた。なぜ上へ上へと逃げたのかは自分でも分からないが、なんとか逃げおおせたらしい。
「なんだいきなり。手を繋いで走り出したりして」
息を切らせてしんどそうなパール。彼女を連れ出すことに夢中で、理由などは考えていなかった。
「いや、何と言われても。困ってる気がしたから」
膝に手をついて息をしていた彼女。けれど僕の言葉を聞くと、肩でしていた息を整えてゆっくりと顔を上げる。彼女の顔には、喜びが浮かぶ。
「私のことを心配してくれたのか? それで連れ出してくれたのか」
改めて聞かれるとこそばゆい。けれど隠す理由もない僕は黙って頷く。すると彼女は僕の手を両手で握り、瞳を輝かせるのだった。
「ありがとう。やはり私の目に狂いはなかった。それに、この学校に来させてくれたレンのご両親の判断も」
イマイチなんのことか分からない。彼女が喜んでくれているので、僕も嬉しいけれど。
胸の高鳴りは置いておくことにして、一先ず気になることを聞くとしよう。
「パールと一緒に勉強できるのは嬉しいんだけど。父さんたちが学校に来るように言ったの? それからどうやって学校に入学を?」
僕の問いに、彼女は斜め上を見て誇らしげな表情を作る。僕の手を握っていた両手を、今度は自分の腰に当てて。
「だってレンが言ったんだぞ。父さんと母さんの言うこと聞くようにって。警察の装備でも昨日の連中には効果がないんだから、ずっと君と一緒にいた方が安全だろうってさ。入学できたのは住民登録と同じような理由さ」
自慢気な表情。だけど今では可愛気しか感じない。自慢気な顔をしているパールが僕の自慢。
休み時間の終わりを告げるチャイム。今日は先生から連絡事項があると言う。まだまだパールと話したいが、すぐに下校時間だ。学校が終わればいくらでも話す時間はある。
教室に戻った僕に突き刺さるクラスメイトの鬱々とした視線。連れ出した時に覚悟していたこと。むしろ誇らしい気分だ。
「昨日役所で事件が起きて、オートウォークなど様々な物が使えない状況です。」
先生が淡々とした口調で話す。事件の真相を知る僕としては、国からの発表は気になるところ。
「機械を狙った犯行らしく、なんとか撃退できたということですが。捕まえることができなかったとのことで、帰り道は寄り道などせずに気を付けて帰るように」
僕が警察に話した内容とほぼ変わらない。他の生徒の反応からしても知っていたことが伺える。だとしたらニュースでも同じような内容を言っているのだろう。
先生の話は終わり、下校時間。帰る用意をする前に取り囲まれるパール。今回はセイラちゃんが助け船を出す。
「パールちゃんはレン君と一緒に帰るんだよね? なら私もキハと帰るからダブルデートしよっか」
デート。昨日までは憧れていただけ。でも今日からは好きな時にできるのだ。ありがとうパール。ありがとう神様。




