新生活
キハとセイラちゃんを家の中に招き入れ、昨日の出来事を順を追って話した。母さんに話した時よりも上手くなった話し方のおかげで、半分くらいの時間で説明は済む。
「パールちゃんが機械の中身ねぇ? もう中には入れないんだよね? なら新しく機械を作るとかはどうだろう」
セイラちゃんの素朴な疑問。右手を顎に当てて考える姿勢を取る彼女。時間に厳しく真面目なだけでなく、頭も切れる。
「装置だけなら作るのは可能だ。けれどコアである私をもう一人作ることはできない。私の力の及ぶ範疇を超えているからな」
渋い顔をしてパールが答えた。やはりいずれは装置が動かなくなるということか。一つ気付いたことがある。もしもパールが装置に戻れるとしたら、僕は彼女と顔を合わせられなくなるということ。みんな。いや、彼女は気付いているのだろうか。
僕の気持ちを知ってか知らずか、パールは僕に優しく微笑む。
「暫くは装置に溜めたエネルギーがなくなることはない。何千年と溜めたんだからな」
ならすぐに枯れることはないだろうな。と思っている僕を他所に、キハと父さんが同時に口を開く。
「パールちゃんって何歳なん」
言い終える前に二人に下される鉄槌。父さんには母さんの。キハにはセイラちゃんの拳がめり込んでいる。倒れ込む男二人。今度は女性二人が口を揃えて同じ言葉を。
「デリカシーのない男どもめ!」
僕はパールに絶対に年齢の話はしないぞ。
一時限目は父さんの電話で欠席させてもらえた僕たち三人。話も一段落したので、僕は学校へ向かう用意をしに自分の部屋に来た。飾り気のない自室は落ち着くが、ゆっくりしている暇はない。教科書を入れ替えると一階に下りて体を洗う。
用意を終えた僕はパールに出掛けることを伝える。
「父さんと母さんの言うことを聞いてれば、間違いなく安全だからね」
寂しげな彼女を残して出掛けるのは後ろ髪を引かれる思いだが、学校に一緒に行く訳にはいかない。遊びに行く訳ではないのだし。
「テレフープ使ってみたい」
当然のようにキハは言うがテレフープってなんだろうか。
「テレポートする輪っかだろ? だからテレフープ」
なんとなく理解はした。別に問題はないだろうと、僕たちは輪の中へと進む。
「僕の後ろをしっかり付いてきてね」
パールの注意を思い出しながら、前に進むことだけに集中し先頭を歩く僕。万が一も起こらずに、無事に学校に辿り着いた。
午前の授業を大人しく真面目に受けていたが、機械の歴史について学んでいても、昨日までとは違って聞こえる。
休み時間の廊下も、親友カップルと過ごす昼休みも。いつもの景色が違って見える。
全てはパールのおかげ。学校が終わればすぐに彼女の元へ帰ろう。
「急ではありますが、午後の授業を始める前に転校生を紹介します」
廊下のすぐ横の席。最前列に座る僕。教卓前で話す先生を見ていた僕の後ろ髪が引かれた。振り返った僕の前には。
「転校生のパール・イヴです。よろしく」




