いつも通りの朝
目覚まし時計のけたたましい電子音で目が覚める。鉄で作られた我が家の殺風景な僕の部屋。鼓膜を攻撃し続ける目覚ましを止めて二階にある自分の部屋から下のリビングへと降りる。今日も両親は僕が起きるより前に仕事へ向かったらしい。用意されていた朝食をありがたく頂くと、登校の身支度を済ます。
昨日と同じ動作の繰り返し。違いはテレビで流れている内容と朝食のメニューだけ。
八時ちょうどに僕の家のチャイムは鳴る。時間に厳しい友達が毎朝迎えに来るからだ。
「用意できてるかぁ? できてないんなら置いて行くぞぉ」
アニメの中の太陽のように尖った髪の彼。濃いめの黄色い髪色が、一層太陽感を増している。彼の爽やかな笑顔からは紫外線が出ているんじゃなかろうか。
キハ・ファミリア。僕の幼馴染みにして親友。十六歳の高校二年生。僕のクラスメイトでもある。
「今日も時間ピッタリだな。僕もいつも通り用意は済んでるよ」
キハに言葉を掛けながら、僕は視線を彼の後ろの人物に移す。
「レン君おはよう。忘れ物ない?」
漆黒の長い髪をなびかせて、切れ長の目を僕に向けている女の子。両手で鞄を持っている様子からも彼女の真面目な性格が分かる。
セイラ・シルヴェストリス。誰が見ても美少女と持て囃す美貌の持ち主。かくいう僕も彼女に惚れていた時期があった。僕の親友が許嫁だと知るまでは。
「心配ないって。忘れ物癖なんてないって」
一度忘れ物をして家に取りに戻ったことがある。僕一人で戻るつもりだったが、キハが付いてきたので彼女も一緒に僕の家まで戻ったのだ。そして三人で遅刻。翌日から毎朝忘れ物はないかと彼女に聞かれている。
「念のため。一応。確認をね」
見た目の雰囲気から冷たそうな印象を受けるが、細かな気遣いができるセイラちゃん。僕の友は果報者だなぁ。
「忘れ物しなくても遅刻しちゃうぞ。ほら、行こうぜ」
友に手を引かれ向かう通学路。とはいえ空には車が飛び交い、徒歩でも国中に敷かれたオートウォークで疲れることはない。機械の恩恵を多分に受けた国。いや、世界だからこその技術だろう。反面で走ることすら忘れた人々もいたらしい。僕たちの世代では学校で走り方を教えられているので心配ないが。
今日も足を動かさずに辿り着いた学び舎。校内までオート化されており、自分のクラスまでは座っていても問題なく着ける。
「みんなおはようさん」
元気なキハの挨拶。僕とセイラちゃんも、彼に続いて挨拶した。
「今日も五分前に着いて満足」
僕の時間に厳しい女友達が、顔を緩ませて呟く。昨日と似たような、僕の日常。