帰宅
瞬間移動を使って僕たち三人は家に辿り着いた。流石にもう鞄も鍵も忘れてはいない。鍵を使いドアを開く。まるで、何日も家を空けていたような感覚。しかし昨日と変わらぬ家の中の光景が、僕の感覚のズレを訴える。
「さぁ、お楽しみの時間ね。息子と神様の大冒険浪漫譚」
顔の前で両手を合わせて僕の話に胸を踊らせる母。期待通りの内容かは分からないが、説明するとしよう。僕とパールの物語を。
学校からキハとセイラちゃんと一緒に役所に向かったこと。忘れ物をして取りに戻り、パールという彼女ができた。そして初めての戦闘。なんとか撃退した後のパールの話。助けを求めて警察署に向かったこと。警察署も襲われていて今度は多数を相手にした戦闘。長い聴取を受けてから家に帰ったものの、鍵を役所に置き忘れて取りに戻り母と再会したこと。
僕が体験した非日常。最初から最後までを母に話した。そして。今からは最も大切な話を切り出す。
「パールが今後襲われないとも限らないし、僕が守ってあげたいんだ。だから、この家に住まわせてあげられないかな」
興奮のあまりテーブルを叩きながら立ち上がる。リビングの机を囲んで話していた僕たち。横に座るパールは両手を膝の上に置いて大人しく話を聞いていた。僕を見つめていた瞳が、今度は母さんの方へと動く。
「私からも、改めてお願いします」
立ち上がった彼女は頭を下げた。僕たちの世界の神様が。
堪らず母も慌てた様子で立ち上がる。肝の据わっている母さんが慌てるのは珍しい。まさか一日に二度も見られるとは。
「頭下げなくても私は許可するつもりだったのに、止めてよ。昨日今日会ったばかりの仲じゃないんだから」
両手を前に突き出して振っている母さん。許しの言葉に更に何度も頭を下げるパール。なんだかおかしな光景。平和で、新しい我が家。
「僕も賛成だけど、一家の大黒柱抜きで決めないで欲しいな」
隣の部屋から現れた人物。僕の父。真っ赤な髪。引き締まった筋肉を纏い、颯爽と登場した。手にはパイを持って。
「話は聞かせてもらった。神様が彼女だなんて、僕らの息子は凄いじゃないか。僕も全力で応援しよう」
穏やかな笑顔を湛えて、父さんは僕の斜め前の席に着く。隣に座る母さんと二人で自慢の彼女を見つめている。話が上手く纏まり、僕はようやく力を抜くことができた。
「ん。パールちゃんが機械ってことは、私って機械自身を整備士に誘ってたのよね? フフッ」
笑いの時限爆弾が作動したらしい。テーブルに突っ伏して笑い出した母さん。何のことか分からない父さんが困惑の表情で背中を擦る。今日からは少し、家の中が賑やかになりそう。
時計を見ると午前八時。チャイムが鳴り、親友と彼女が迎えに来た。しかし今日の僕は何の用意もできていない。
「おはようレン。って顔中真っ黒じゃん。まさか昨日の事件に巻き込まれたりしてないよな?」
また長い事情説明が始まるのか。