母よ
何事もなかったかのように開く扉。パールが外に出てもしばらくは問題なく動く。確かに彼女の言う通りだ。中から溢れ出る光も、昨日から変わった様子はない。
パールが先頭を歩き、僕が二番目を行く。後ろから見ていると、彼女は辺りを見回している。
「ロックしていたから当然だけど、特に異常は見当たらないな」
パールが指差した先は彼女の城。昨日までの僕が神様だと思っていた装置。見た目には変化はなく、問題なく動いているようだ。後から来た母さんが口を開く。
「おはよう機械。変わりはないかしら」
少し待ったが反応はない。今まで機械として話していたパールは、僕を見て手を振っている。つまり、母さんが話し掛けているのは脱け殻。
反応がないことを不思議に思ったのか、母さんは機械を操作しだした。ボタンを押して食材を呼び出す。出てきた肉を見つめて何やら考えている様子を見せる。他のボタンも試しに押しているが、全て問題なく出てきてる様子。出てきた物を見回しながら、首を捻る母さん。やはり言葉に反応がないのが気になるのだろう。
「この部屋に入る人に敵意があるのか調べる装置が欲しいわ」
大きな声で母さんは機械に願った。昨日までは会話の後に現れていた願った物。今日は何の返事もなく現れる。
「確かにお願いした物は出てきたけど、全然会話してくれないのが気になるわねぇ」
何度も首を捻る母さんが他の整備士と話し出す。長くなりそうだな。と思っていると、部屋の隅で退屈そうにしていたパールが近付いて来た。顔の前にすぼめた手を持ってきて耳打ちの合図。
「機械が話してるよう聞こえる装置を作って置いておいた方が良さそうだな」
僕は何度も頷く。すると彼女は僕の後ろに隠れた。物を出すところを見られたら、一瞬で正体がバレるだろう。まだ信用できるか分からない他の人に見られる訳にはいかない。
周りの人が会議に夢中のなか。パールは誰にも見られずに装置を出すことに成功した。親指を立ててウインクする彼女。今度は僕の出番。
「いま出した装置と連動して、敵が来たら自動で入り口が閉じるようにして欲しいです」
部屋の中にいる全員に聞こえる大声を出した。騙しているような気にもなるが、パールを守ることはカラルを守ること。整備士の人たちを守ることにもなる。ハズ。
「分かった。任せるが良い」
抑揚も感情もないパールの声。返事さえすれば良い。という訳ではないと思うが。
「うーん。なんか引っ掛かるけど。疲れてる二人を待たせる訳にもいかないし、今はこれで帰りましょうか」
母さんの言葉を聞いて、またしてもどや顔をしているパール。確かに凄いけども。凄さよりも表情の可愛さが勝っているな。
機械の部屋を出た僕たち。全員出たと同時にバリアのような物が張られた。
「これなら安心して帰れるわね」
母さんの一言で解散する整備士。他の人が全員帰り、役所には僕ら三人だけ。首を左右に振り周囲を確認すると、僕とパールの肩に手を回す母さん。
「で? 急に息子に彼女ができて、その相手が何故神様なのか教えてもらえるのかな」




