邂逅
圧倒的な存在感を放ちながら、僕たちの方へと歩みを進める万物の主。父さんたちには何一つ動きはなく、急に現れた不審なモノを見逃した。するといきなり探知範囲から反応が消失。もしかすると気のせいだったのかと思うほどに、静かな時間が流れる。
しかし場の空気は重い。トパーズの最後の言葉が、全員の心を絞めているのだろう。
「レンくん。トパーズはもう蘇らないよね」
セイラちゃんの言葉に頷く。するとキハが右手を高く上げて大声を出す。きっとみんなを元気付けるために。
「あんな奴の言葉を真に受けて、せっかくのめでたい時に沈んでたら勿体ないぜ。戦争を繰り返すかどうかは、これからの俺たち次第なんだからさ!」
彼の言葉で明るさを取り戻した仲間たち。だけど、僕とパールだけは絶望の淵から抜け出せない。全てを無かったことにさえできる存在が、今も近付いているような気がして。
震えは治まった。吹き出す汗も熱も、少しは落ち着いてきたと思う。腕の中の彼女も、仲間たちの喜ぶ様子を見守る余裕が出てきた模様。みんなの暖かな空気が呼吸を整える。
「フフッ。気のせいだったんだろうな。奴の言葉を真に受けて無駄に動揺していたのは、私達だけかも」
視界も安定してきた頃。パールが小さく呟いた。喜びに沸く中で、聞こえたのはきっと僕一人。今なら彼女に伝えたいことも言えるだろうか。聞きたいことも沢山ある。
「あのさ。世界が平和になったら、パールの力を貰う時に見えたモノを伝えなきゃって、そう思ってたんだ」
ずっと二人で抱き合っていたが、僕の言葉を聞いた彼女は瓦礫に背中を預けた。肩と肩が触れ合うように座り、視線は仲間たちへ。
けれど二人の意識は抱き合っていた時より確かに、お互いの心に触れる。
「何を視たんだ? さっきの反応からして、お母様のことは分かってると思うけれど」
順を追って話そうとしていたが、彼女にはある程度お見通しの様子。だったらご先祖様の話からで良いのだろうか。と、考えていた僕の肩に甘い香りを漂わせる頭が乗った。
パールの匂いが僕の心を平穏へと導く。
「最初はパールのお母さんがお姉さんたちの状況を説明してた。そのあと原初の星を貰い人のために尽くしてたのも見たよ」
姉たちの失敗や母の見せた感情。戦争のことには触れていないが、彼女にはお見通し。
「もう、争いが終わると良いんだけどな」
仲間たちより先。遥か遠くの未来か、過去の出来事を想っているのか。パールの視線は彼方を捉えていた。
「終わるさ。今は僕たちも側にいるんだ」
僕は自分の台詞に照れて、彼女は、嬉しげに笑う。少しの沈黙が流れ。疑問が浮かぶ。
「そういえば鎧はいつ解けるの?」
鎧を着たままなのに、パールの感触や匂いが分かる。まるで体の一部のように。
「それは、その。私にも分からない。レンは鎧を着てるんだと思うが、神覚を展開した頃から私には普段の姿に見えているから」
先ほどまでとは別の恐怖が襲う。一生今の状態なのかと。するとパールからの提案。
「姿を変える効果なんて付いてなかったし、もしかすると想像剣と鎧が繋がったのかも。だとしたらレンのイメージ通りになるんじゃないか? ならしたいこともできるだろう」
体の一部のような気がするのではなくて、実際に同化したということなのか。本当なら混乱すべきときなのだろうけれど、パールの微笑みが穏やかさをもたらしていた。
「ちょっと良い?」
彼女の頭に触れる。滑らかな髪の毛。鼻を満たすイチゴの香り。紅く色付いた柔らかい肌。安心感をもたらす体温。流石に食べる訳にはいかないから、味覚が機能しているかは不明。だけど分かる範囲では僕の体と何一つとして変わらない。
「後でご飯を食べれるかも調べないとね」
などと呑気に彼女の手料理に思いを馳せていると、あり得ない存在が姿を現した。
夢の中で何度も見た人物。今はいないハズの過去の英雄。
「皆さん楽しそうですね。私も仲間に入れてくださいな?」
赤い髪と目の、小さな鼻の美少女。