降臨
僕と同時にパールも動いた。やはり彼女も探知を止めてはいなかったのだろう。発生源はトパーズを倒した地点。目と鼻の先。
「おや。ちゃんと学習シテ、偉いじゃナイ」
復活したといっても、傷だらけで虫の息。全てを擂り潰す威圧感もない。三番目の神の残滓は既に嫌味もマトモに言えない様子。
「見ての通り、お母様の力の前では、神でも不死身ではいられナイ。戻って来られたのは伝えるコトがあるからかシラ」
奴は地面を這ったままでエレバーの兵士を見ると、歪な笑みを浮かべた。直後、今までの怨みを伴うように、三人が声を上げる。
「今更キサマに言われることなどない!」
彼らが蹴り飛ばすとトパーズは消滅。だがすぐに同じ状態で再生。まるでトリーさんの分身体のよう。警戒しておかなければ。
「レン・ドレイグ。お前の剣でしかアタシは殺せナイ。せめて話を聞いてからでも遅くはないだロウ?」
肌と髪の色の他はパールと同じ。だから、別人だとしても気持ちが揺らぐ。すると本人が僕の左手を取り、姉に告げる。
「容姿を利用するようなことをするな。お前も神の一人だろうが」
左腕を絡ませると舌を出して不服の表情。やはり可愛さの次元が違う。見た目がパールと似ていても意味がない。可愛げは内面から生まれるものなのだから。
「お前こそ人間に恋心を抱くナド」
言い掛けて口を止めたトパーズ。そして。
「下らない言い争いをする時間はナイ。必要なコトだけを教えてヤル」
パールに向けていた怒りから、またしても笑顔へと変わった。何か裏があるのは確実。不審な動きを見せればすぐに斬る。
「伝えるコトはただ一つダケ。アタシは国を乗っ取り、利用はしたが、今回しか強制的に身体を動かしてはいナイ」
恍惚に歪む顔。力を失くしたというのに、周囲の空気を凍てつかせるトパーズ。なのにまだ、奴の口は動きを止めない。
「元々エレバーの連中には、カラルへの怒りの感情があっタ。アタシはソレを利用したというダケ。アタシが消えても必ず戦争は繰り返さレル。ずっと、ずぅっとねェ」
ヴァンさんは腰が砕けたかのように尻餅をついた。傍の二人は膝を突くと彼の様子を見ている。彼らの反応に、狂ったように笑い声を上げる悪魔。続けさせてはいけない。
「あぁ。まだあっタ。これは不出来な妹ニ」
想像剣にパールニウムの刃を出す。そしてトパーズの消滅するイメージを叩き付けた。
「アタシもこの星の住人なの」
背後に響くパールの叫び。僕の視界には、消えゆく邪神の笑顔の破片。
「ミチヅレダ」
トパーズは想像剣の力で完全消滅。同時に形容し得ない存在が原初の星へ降臨。国境で睨み合いを続ける父さんたちの前方。神覚が勝手に彼女を捉え、身体は震えを止めない。
白と黒が交差する視界で、なんとかパールの身体を掴んだ。無尽の水を噴き出し、創造の火を発する彼女。僕もきっと同じ状態なのだろう。




