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原初の星  作者: 煌煌
第三十四話 シンカ
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終わりの終わり

 背後からの敵の声。そして神覚内に現れた冷たい意思。僕らの真下から這い出る漆黒の輝きは、二人を包み込み消し去ろうとした。

 だが奴の思い通りになんてならない。僕の鎧が解けていたら、終わっていただろうが。

 しかし、僕と彼女が立っていられるのは、僕たちだけの力ではないのだ。


「やはり生きていたか、トパーズ」


 パールの声を合図に手を繋いだまま前方へ飛ぶ。着地と同時に振り向くと、目に映ったトパーズの身長は、パールと同じくらいまでに伸びていた。他の容姿は変わることなく。

 地面を破き、先ほどまで僕たちがいた場所を何かが通り抜けた。見えない何かが。


「フン。今ので仲良く死んでれば良かったと言うノニ。あァ。アンタは死ねないカ?」




 嫌味を言ったことで余裕が生まれたのか、トパーズは表情に以前の笑顔を作った。

 気持ちに余裕がなくなったのは、僕の方。不可視の一撃に動揺を隠せない。


「あんな物。神覚を展開していれば当たりはしないだろう。攻撃で散らして、どうしようと思っていたんだ?」


 パールの言葉で気付いた。見えないだけの攻撃は、今の僕たちには効果が薄いのだと。

 冷静になると、トパーズの顔色の変化にも気付く。いや、誰でも分かっただろう。奴の顔が元に戻ったのだから。

 直後。またもや神覚の中から透明な攻撃。


「離れないならそれはそれで良かったノヨ。一気に欲しい物が手に入るんだモノ」


 奴は話しながら近付いてくる。ドーム状に軌跡を描き、包囲するように発生する攻撃。僕たちに回避の他に選択肢などない。

 すぐ近くにまで寄ると、切れたハズの右手を伸ばすトパーズ。同時に攻撃が止み、僕の視線は傷一つない掌に釘付けになった。

 力強く握られた右手。直後に起きたのは、僕らを包んだ爆発。




 大きな音と衝撃の割に威力は他の攻撃より低いのだろう。痛みはなく、空中へと吹き飛ばされただけ。だが一瞬。自由は奪われた。パールの胸元へと伸びるトパーズの手。

 やらせてはいけない。心が警鐘を鳴らす。でも身動きの取れない僕にできるのは、想像することだけ。パールを守るための、盾を。

 僕の右手が真紅の光を放つ。燃えるように熱く、心まで滾らせる焔。すると、想像剣は本来の性能を発揮。時間が流れる前にパールを包み込む盾を形成。トパーズを弾いた。


「人間如きがァ!」


 原初の星全てに響くかと思うほどの咆哮。無数の光線が僕へと向かう。想像剣はパールを引き寄せ、二人を盾が守る。まるで、意思でも持ったかのように。


「今度はこちらから、仕切り直しだ」


 暖かな空気に押されて、パールに微笑む。僕が感じた心は、一人だけのモノではない。彼を切っ掛けに目覚めた、人の願いの結晶。

 決して善い願い事だけがあるとは言えないだろう。黒い感情が含まれているモノだってある。だけど、今は全部、僕の手の中に。




「力が高まったのね。良いわ。不死身になる前に、アタシも本気を出して殺してアゲル」


 盾を解除。瞬時に距離を詰めるトパーズ。星が悲鳴をあげるほどの加速。なのに。奴の狙いは僕一人らしい。奪える可能性が潰える前に奪おうというのだろう。勢いを活かした突きの構えを取る敵。時間という概念さえも貫く悪意。制御の利かぬ怒れる神。

 受け流せば穿たれる。受け止めたなら弾け飛ぶ。回避を選べば滅びが待つ。

 空間。星。人。何を選んでも犠牲が出る。ならば別の方法を。


「すぐにその子も送ってあげるカラ」


 僕の一番の目的を思い出した。絶対に守り抜くこと。例え犠牲を払おうとも。




 イメージ。奴に届く剣。攻撃を受ける前に叩ける四メートルの武器だ。

 想像剣が刃を持つ。トパーズのすぐ目の前に突き出される切っ先。奴は身を翻し、剣の下へと潜り込んだ。でも、僕の思い通り。

 刃を切り離して、トパーズの上に落とす。すると右側に躍り出て奴は後退。軌道を変えられたことで速度が落ちたからだろう。




 今度は僕の番。まずは地面の上の刃を奴に目掛けて蹴り飛ばす。左に躱された。だから想像剣を振るう。トパーズの技の模倣。僕と父さんの修業の成果。見えない刃を。

 右への水平斬り。しかし剣の動きで回避を行う相手。屈んで躱された。今がチャンス。奴の足下に転がる刃が弾け飛ぶ。


「そう。二つともお前の技だ」


 爆発で身動きを僅かに封じられたトパーズが最後の咆哮。しかし僕の耳には届かない。

 背中から聞こえる、僕の名前を呼ぶみんなの声に掻き消されたから。

 終わりを斬り裂く、一筋の煌めき。



 神覚を研ぎ澄ます。原初の星にトパーズの気配は、ない。


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