開く扉
「レンが起きたぞー」
パールが役所の中の母さんを呼ぶ。今度は慌てず歩いて寄ってくる僕の母。しっかり者というイメージを崩したくないのだろう。
「おはよう。顔を見た時はビックリしたけれど、パールさんに話を聞いて安心したわ」
父さんと同じ赤い髪。だけど母さんのは腰までのロングで少し黄色味を帯びている。
膝を突いて話し掛ける母さんの顔からは、さっきのような心配そうな表情はなくなっていた。今は優しさだけが浮かぶ。
「こんなに可愛い。いえ、美しい彼女さんをやたらと歩かせたらダメじゃないの」
いや、僕が歩かせた訳じゃ。けれど止めなかったのは確かだしな。言い訳したって仕方ない。
「パールごめんね。母さんも仕事中なのに手を止めさせてごめん」
意外そうな顔をする母さん。子供みたいに言い訳をすると思っていたのだろうか。確かにまだ子供だけれど。
「私には謝る必要ないのよ。家族なんだし」
今、母さんの視線が一瞬僕から外れたような気がする。
「わ、私にも謝る必要はないぞ。彼女なんだからな」
いやパールも対抗心燃やさなくても。というか、人の頭の上で火花を散らすのは止めてほしい。
「何で母さんは挑発するのさ。パールも母さんと初めて会った訳じゃないんだし、喧嘩しないで」
話しながら起き上がる。パールが背中を押し、母さんが僕の手を引く。全く労力を費やさずに起き上がった。喧嘩してた割に抜群の相性を見せ付けられたような。
「あら、パールちゃんやるわね。レンの彼女兼私の助手なんてどう?」
パールが機械の整備をしてたら僕は堪らず噴き出すだろう。今も想像しただけで面白いのだから。
「いや、私は」
言葉を選んでいるのか、少し答えに詰まるパール。
「機械とかよく分からないから」
もはや彼女が何と答えても大喜利状態。僕はまたしても崩れ落ちた。今度は前に。
「えっ。何がそんなに面白いの? もしかして頭でも打ったのかしら」
他の人がいる前でパールが機械だと言う訳にはいかない。けれど母よ。後でたっぷりと説明して差し上げよう。
「僕のことはいいから。仕事してきなよ」
腑に落ちない様子の母さん。けどいつまでも機械の部屋に入れないと全世界が困る。
「そう? じゃあまた後で話を聞かせてね」
手を振りながら離れていく。すると後ろのパールが僕に声を掛ける。
「たぶん私が行かないとロックは解除できないから、一緒に行ってくるよ。レンは家の鍵を探しておいて」
にこやかな笑顔を浮かべ、彼女も手を振り去っていく。いきなり一人きりになり、少し取り残されたような気分。
へこんでいても仕方ない。早く鍵を探して二人の所へ行こう。
「確かこの辺でパールと話してたよな。あ、あった」
僕に彼女ができた場所。パールの名前を聞いた物陰。あまりの驚きに鞄を置き忘れたらしい。特に事件も起きずに鞄を拾うと、僕は二人のいる部屋へと向かう。
「パールちゃんたら凄いのよ。私たちが全く開けられなかったロックを一瞬で解除するんだから」
興奮気味に話す母さんと少し引いている様子のパール。何故簡単に開けられたのかと詰め寄られたんだろうな。
「パールが引いてるから。少し落ち着いて。装置の点検をしたら帰れるよね? 僕らも一緒に行くよ」
パールに顔を向けると彼女は深く頷いた。コアを失くした僕らの神様。幼い頃から何度も見た巨大な姿。果たして今もちゃんと動くのだろうか。
「じゃあ、入ろうか」
パールが扉を開く。




