焔心
僕たちを嘲笑うかのように緩やかな動きを見せるトパーズ。左腕をトリーさんの方へと向けると視線を僕とパールへと戻した。
開かれた奴の手から伸びる光。咄嗟に体を動かした僕は目の前の敵へと斬りかかった。しかし手応えはない。消えた気配を探ると、下へと瞬間移動した模様。すぐ側には怯えた少女。振り返るのを待っていたように流れを早める時。もう一度放たれる暗黒の煌めき。
次に動いたのはパール。二人の間に割って入ると庇う姿勢を取った。彼女の介入により攻撃は逸れ、一連の動きは終了。
「本当に邪魔できると思ッタ?」
トパーズの声の直後。下にいたパールの姿が消え、僕の右隣に出現。
「止めろっ! トパーズ!」
パールの叫びを背中に受けた奴は、わざと僕らの方を見た。満面の笑みを湛えて。
我に返った様子のトリーさんが震える手で武器を構えた。しかし敵の視線は動かない。
「何ができるって言ウノ?」
僕たち三人への言葉。そして奴の左手は、もう一度白い暗黒を生み出す。トリーさんと敵との距離は二メートルほど。僕とパールが滑り込むより、光が届く方が速い。
だとしても動く。限界の速度でトパーズに接近。僕は右上に、パールは左上に剣を振り上げた。すると奴は右手一本で防御。二人の攻撃を、軽々と防ぐ。
眩い白の先は見えない。今、確かに分かるのは、僕自身の焦る心だけ。
「あァ。タマラナイ。仲間の死体を見タラ、二人ともどうなっちゃうのかシラ!」
歪な笑みが背筋に氷水を垂らす。力を込め剣を動かそうとしても、今の心では不可能。
光が鎮まっていき、もう一度訪れた夜中。月明かりのみに照らされる。僕たち五人。
白い光の先から現れたのは、燃えるような赤。緑の分身体とは違い僕らの見知った人の姿を成し、両手でナイフを握り締める少女を庇う。きっと、最後の焔。
彼の姿が空気に溶け始めると、トリーさんの震えが先ほどとは別種だと分かった。
時間にすれば一秒ほどのこと。消えた後に流れた時も。
「トパーズから世界を守ってください」
聞き覚えのある熱。彼の想いが弱っていた心に火を灯す。僕の持つ物とは別物の炎を。
「ンン? 加減を間違えたかシラ?」
またも左手を開くトパーズ。だけど今回は僕の剣が動く。抵抗を物ともせずに。
「つッ! なんだ小僧!」
右上に振り抜いた想像剣。パールニウムの銀の輝きを放つ刃を見つめ、ようやくらしい顔を作った悪魔。
「どうした? 表情が乱れたぞ」
トリーさんへと向けていた左手で傷口を押さえ、僕を睨み付けたトパーズ。奴の態度が変わったことからも分かる。お遊びの時間がもう終わりなのだと。




