激しい雨の町で
キハたちの戦域から離れると、遠くに三本の竜巻が見えた。近付くにつれ押し戻される感覚と共に、風の声と鉄同士のぶつかり合う音が運ばれてくる。間隔の消えた高い響き。
上空は風に制され、新参者の僕には自由の権利を与えない。地上に降り立つと火の手が上がっていた先ほどの戦場と違い、激しい雨が崩れた建物を打ち続けていた。
二人と合流するため歩を進めると、何故か曲がり角に既視感。不思議な気分で通過した僕の目に、以前見た光景が繰り返される。
武器を弾かれ姿勢を崩した女子二人。尻餅をついた彼女たちを追い詰める、巨大な剣と三人の男。後退りしながらも、イオンさんは後ろ手に双剣を探している様子。
「今回は何一つ言わないのですね」
黄金を纏いガスマスクを装着した男へと、彼女が問う。だが敵は答えることもなく武器を振り上げ、天にも届きそうな刀身を太い腕で叩き下ろす。
姿を現した既視感の正体。僕は風を潰して進む剣の着地点に向けて走る。道中に落ちている武器を二人の手元に戻し、彼女らが睨み付ける先へと想像剣を展開。神の創りし鋼が巨大な刃を寸断。同時に流れ出す時間。
「レン、さん?」
緊張からか本来の美しさを掠れさせた声を出した二人。先ほどの失敗は繰り返さない。僕は忘れ物をしないように気を付けた。
「ここは僕に任せて、二人は下がって」
パールニウムのイメージからビームに切り替え。高温の刃に触れた雨が蒸発。すると、降り続ける雫を足が放つ波で押し退け、加速する男が急接近。視線を戻した僕を襲う回し蹴り。空間を切り裂くような鋭い一撃。
同時に左手からは風が自由を奪う。パールの生み出した旅館を思い出させる圧力。ただの人間なら潰されていただろう。
流れを緩める時間の中。僕は右手で防御。少し重い体に指令を送り、左手を奴の顎へと見舞う。アイと呼ばれていた男は加速する術を失い、押し付ける風に逆らい上昇。黄金の鎧はまだ壊していないが、気絶はしたハズ。
次は風使い。フレアの弟で確か、ヴァン。役所での戦闘よりも勢いを増した圧は、僕の接近を阻むかのよう。ならば動かずに倒す。
指を弾くと衝撃波が生まれた。ヴァンへと向けると、彼の風を掻き消して直撃。思いの外の高威力に少し焦ったが、気絶しただけで済んだ様子。残るは一人。
「レンさん。アイツは危険です」
風の力が消え、運ばれてきたアグルさんの声。先ほどより落ち着きを取り戻せたのが、高い響きから分かる。
「恐らく他の二人とは能力の質が違います」
アグルさんの助言で警戒した僕。様子見を兼ねた指弾での牽制を放つ。
弾かれた上半身とは反対に、下半身は地面に張り付いているかのように動かない。何度か繰り返しても同じ。微動だにしない足。
敵との距離およそ十メートル。以前は一撃で倒れたというのに、指弾の直撃にも耐えて立ち続ける相手。確かに先の二人とは違う。能力が分かるまで油断できない。
だから。警戒していたハズ。なのに、右側から頭部を襲う衝撃。驚いて出所を見ると、前にいたはずの男の姿。
「瞬間移動か?」
僕の問いにも答えない虚ろな眼。