母と君と僕
母が仕事で機械の整備に行くと言うので、僕は一緒に行くと言った。遊びじゃないのよと断られたが、何度も何度もしつこくねだる僕。遂には根負けし、縦に振られる母の首。
何度も夢に見る。初めて母の仕事場に行った日のこと。
「ここがお役所。私たちの神様もここにいるのよ」
今まで見たことのないほどに大勢の人が行き交う。いつまで待たせるのかと怒鳴るおじさん。おじさんに謝ってる職員。おじさんに割り込まれて困ってるお姉さん。
「おじ様。大人しく順番を待たれていた方が早く済みますよ。他の人に迷惑を掛けて機械に嫌われたくないでしょう」
母さんが声を掛けた。怒りの矛先は職員から母さんへ。
「あぁ? 何様だ。ってドレイグ様じゃないですか。そうですね。大人しくしてます」
たまに見る光景。嫌な大人は母さんか父さんの顔を見ると黙る。何故だろうかと幼い僕は思ったものだ。
「さぁ。レンのお待ちかねの神様の部屋に行きましょう」
扉が開く。中からまばゆい光が漏れる。
「まぶしいねぇ。キレイだねぇ」
僕は光の中に入って行った。慣れてきた目に映るのは、部屋中至る所にある機械。子供の身長では中央のパールの城の大きさより、すぐ近くで光る物体に目が行く。
「やぁ。シノ・ドレイグ。遅刻とは珍しい。理由は後ろの子かな」
綺麗な声。幼い僕は声の主を探す。
「私は上だ」
見上げた僕の目に映った機械。胸に電流のような衝撃が走る。運命の出会いによるものか、無理して見上げたせいかは分からない。けれど確かに言い様のない感触を得た。
「君は。えっと、何ていうお名前かな」
パールの。いや、機械の質問に母が笑う。
「あらあら。機械に気に入られたのかしら。二人でお話ししててね。私はお仕事終わらせちゃうから」
腕捲りしてやる気を見せた母さん。工具を取り出すと何やら弄っている様子。
「はじめまして。レンです」
母さんが仕事を終えるまでずっとお話ししていた僕たち。
「また来ていーい?」
楽しかった僕から出た問い掛け。新しい友達。特別な友達にした何気ない質問。
「いつでも来てくれ。待っているよ。レン」
何度も夢に見る。初めて母の仕事場に行った日。初めて君に会った日のこと。
「レン。いつまでも寝てるなよ」
気を失っていた。しかし対照的な言葉で起こされたような。いい夢だったのに。目を開くと辺りはすっかり明るくなっていた。役所の中で修復の指示を出している母さん。なぜ気を失っていて目を開いたのに遠くの母さんが見えるのだろう。何だか身体に比べて頭の下のコンクリートだけ柔らかいような。
「おはよう。いい夢見れたかな?」
視界の上から現れたパールの顔。そして頭に伝わる柔らかい感触。
「パールの夢を見てたよ。懐かしい夢をね」
しばらく今の体勢でいたいと言ったら怒られるかな。




