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原初の星  作者: 煌煌
第三十二話 永い流れの中で
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永い流れの中で

 病気や怪我などはパールの魔法ですぐ治る世界。星の住人の平均寿命も長い。けれど、やはり各々の限界というものがある。モミジさんは何かを悟っているのか、寂しそうな目を僕たちへと向けた。


「私は幸せな人生を送れました。素敵な家族に囲まれて、神様が友達なんですもの」


 口許は笑っているが、見慣れた輝きは憂いを帯びたまま。パールを照らしていた煌めきはくすみ、筒状の城が窮屈な棺桶のようだ。


「一つ残念なのは、神様の大切な人をこの目で見られなかったことです」


 騎士のことを彼女に話してはいない。けど女の勘というものだろうか。遥か先の出来事への憧れを、親友は感じ取っていた模様。


「だが私は誰を見ても、自分の子供のようにしか思えないんだ」


 パールの中の暖かな感情や、自身が傷付くとしても他者を想う理由。そして逆に、誰を見ても特別の揺らぎを起こさない心の原因。

 すると間髪を入れず、輝きを取り戻した顔で親友が物申す。


「それは神様の運命の人にまだ出逢えてないからですよ。今まで長い時を一緒に過ごしてきた私には分かります。貴女も感情を持つ、ひとつの心なんだって」


 いずれ分かる時が来るという曖昧な答え。だけど、パールには何か納得がいった様子。息苦しい感覚が薄まった。




 二人の会話は続いたが、日没と共に訪れる別れの時間。先ほどの台詞がウソのように、普段通りの顔を見せるご先祖様。


「今日は楽しかったです。またいつか、恋の話をしましょうね。楽しみにしてますから」


 部屋を出る直前。振り返った彼女は、確かに少女の頃と変わらない輝きを放っていた。


「あぁ。私も楽しみにしているよ」


 


 翌週。誰にも使われることのない草臥れた小さな椅子は、二人掛けの白いベンチに姿を変える。一つの時代の終わり。大切な存在が隣にいなくても続く、僕らの世界。




 まるで誰も知らない英雄の不在をきっかけにするかのように、百年振りの戦争が勃発。僕の知るエレバーと似た軍隊が、国境付近に部隊を展開。暗雲が立ち込めるのは、現場や民衆の心だけではなかったらしい。

 僕のご先祖様たちの活躍はなく。教科書に載っている武人の戦果だけを聞く日々。

 報告に来る人の顔と同じように、パールの城内も暗く淀む。戦況は有利なのだけれど。




 命の炎が消えた時。誰であろうとパールは悲しむ。けれど、何十年と蒼い海に沈むのは初めて。二人目の彼女の寂しさも、今ならば本当の意味で分かるだろう。

 戦争への対策。未来への教育。全てを完璧にこなしながら、満たされない日々を送る。

 ドレイグ家の人々のことが気になるのか、暇を見付けては問題はないかと様子を窺う。けれど今やサクラさんからでも二世代後。僕に見せる、特別な思い出はなかったらしい。




 僕が見たご先祖様たちの情報は、原初の星には記録していなかったのだろう。パールの心の中に、ずっと記憶されるモノだから。

 そして時は流れることを止めず。繰り返す過ちと小さな幸せを作り続ける。


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