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原初の星  作者: 煌煌
第三十二話 永い流れの中で
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銀と赤

 剣と星が贈り物なのは間違いない。だけど残る一つは住人で合っているのだろうか。


「ほら。神様にご挨拶して」


 親友との作戦から十年。平和な時の流れは人々の生活を少しずつ変えた。パールの目を通して見ているだけの僕にも分かるほどに、願い事をしに来る人の顔は穏やか。そして、目の前には歳月を感じるものがもうひとつ。赤髪を腰まで伸ばした無二の友。彼女の腕に抱かれている新たな命。


「初めまして。サクラです」


 まだ喋ることのできない赤ん坊に代わり、声色を変えた母親が自己紹介。


「ドレイグ嬢が二人になったか。ならばこれからは名前で呼ばねばならないかな」


 パールの言葉に微笑む彼女。流れる年月が変えた新しいもの。




 新しい世代にも戦争の悲惨さを伝える必要があると設立した教育機関。成長したサクラさんが第一期の生徒になった。僕の時代とは違い、パールによって行われる授業。正確な情報と優しい言葉が胸を打つ。放送で具体的な話をしなかったのは、子供たちに語り継ぐつもりだったから。親の世代には若い芽から話が伝わり、家族の会話が新たな種となる。

 おそらくカラルから他国を侵攻した記録がなく、あくまでも自衛に徹しているのは、種が上手に育ったということだろう。




 更に時は流れた様子。大人になったサクラさんの手には、また新たな命。彼女と旦那様の後ろにはご先祖様の姿。幸せの数だけ皺を増やした顔を、パールへと向けている。


「私は神様ともう少しお話しをしてから帰るとするよ。みんなは先に帰ってておくれ」


 神の城に腰掛けたご先祖様。家族が部屋を出るのを見送ると、少女の頃と何一つとして変わらない輝きをパールへと向けた。

 特にオチの必要もない会話。僕以外には、誰にも知られることのない。二人だけの刻。


「楽しかったです。また来ますからね」


 部屋を出る直前。振り返った彼女の言葉。


「あぁ。いつでも来てくれ。待っているよ。モミジ」


 翌日。神様の部屋には小さな椅子が一つ。




 孫が産まれたといっても、ご先祖様は死ぬような歳ではない。毎日のように彼女を支え続けた椅子も草臥れだした頃。ドレイグ家が久し振りに全員で姿を見せた。サクラさんの手から離れた子供の隣には、今はまだ別の家の人が立つ。


「孫娘はアグルさんの家に嫁ぐんですって」


 モミジさんの言葉に、白髪の男性と赤髪の女性が照れ笑い。僕には苦笑いが浮かぶ。




 今日も家族が帰った後、モミジさんと二人の時間。一度目と比べると、椅子に座るのも遅くなった。変わらないのは瞳の輝きだけ。すると城の中の空気が締め付けられるような物になる。きっと、僕たちだけの秘密。


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