夜明け
午前二時過ぎ。すぐに解放されると思っていた聴取はとんでもなく長引いた。史上類を見ない重大事件の目撃者。いや、生還者か。とにかく僕の話す内容は貴重な情報なのだから簡単に終わるハズもなかった。
「お疲れ様。私のことも話さずに終わらせてくれて嬉しいよ」
偽情報を流してはいない。彼女との出会い方も、起きたことを順を追って話した。意外なのはパールの名前を聞かれた時のこと。
「なんだっけ? パール・イヴだっけ?」
一部だけ名前を変えて言った彼女。しかし何故か住民登録されており、住所も確かにあるのだと言う。
「住所には誰も住んでない家があるだけ。名前は咄嗟に浮かんだ偽名ってヤツかな。もしものために用意してて助かった」
イタズラな笑顔。質問した時の僕も意地悪な表情を作ったが、彼女のはもっと。
「悪い顔しちゃって。けど世界一の重要人物だし万が一は考えてなきゃか。でも偽名と本名ほとんど一緒だよね」
僕も今度は彼女に負けない笑顔を向ける。他の人が見ればイチャついてるように見えるだろうか。
「この後はその家に帰るの?」
僕の興味は彼女の今後。既に敵襲のことは眼中にない。
「ううん。いや、住もうと思えば住めるだろうけど。レンが嫌でなければ、レンの家に住まわせてはもらえないだろうか」
夢の展開。美少女と一つ屋根の下。もしも断る理由があっても捩じ伏せてみせる。
「父さんも母さんも事情を話せば分かってくれる。よね?」
イマイチ格好付かなかったが、パールは微笑む。とても、嬉しそうに。
「じゃあお願いします。さ、帰ろッ」
僕の手を引いて走り出す彼女。眩しい笑顔に高鳴る胸。しかし心の中では冷静な僕が警報を鳴らす。警察署から家まで歩けば二時間近く掛かると。
「よ、ようやく。着いた」
嬉しそうな彼女の顔を見て、移動装置のことを言い出せなかった僕。すっかり疲れ果てている二人。疲労度だけなら戦闘時より高いんじゃないか。
「思ったよりも。遠いんだ、ね」
家の玄関前でしゃがみ込むパール。警察署を出た時の笑顔はもうない。
玄関を開ける体力もない僕。他にも無い物を思い出した。何故役所へ戻ったのかを。
「家の鍵。役所の中に置いてきた」
腫れた顔のまま役所へと到着した僕。今回は瞬間移動でやって来た。遅れてパールも輪から現れる。僕をビンタした左手を真っ赤にして。
「レン! その顔どうしたの! 敵にやられたのね? そうなのね?」
慌てて駆け寄ってくる女性。やっと会えた見知った顔に僕の膝は抜ける。
「レン。死なないで! レーン!」
薄れていく意識の中。心配そうな母の顔と堪えられず笑い転げている僕の彼女を見た。空から伸びた一筋の光に照らされて、出会った時よりも輝いている。僕の一生の自慢。