表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原初の星  作者: 煌煌
第三十話 わがまま
149/180

光速の中の超高速

 昨日よりも精彩に富んだ彼らの動き。下手をすると能力を隠していた時のフレア並み。だが今の僕なら、取り囲まれて一斉攻撃さえ受けなければ対処できる。十体ほど倒すと、薄くなった壁の後ろに隠れているトリーさんを見付けた。けれど彼女が本物だという確証はない。何度も遅れをとった戦法。パールの試合終了の合図まで警戒を続けなければ。

 背後にも気を配りながらトリーさんに近付く。一体ずつ分身体を倒し、残るは彼女の前で立ちはだかる直衛三体のみ。中央は長剣と盾。右は槍。左は短めの双剣。念のため周囲を確認するも、少し離れた位置でアグルさんとイオンさんが隙を窺っているだけ。倒した数十体が復活する様子も、トリーさんが遠くに隠れている雰囲気もない。


「ふふ。流石に警戒してるのね。でも今回は私が本物で間違いないわ。パール様には既に見破られているから、この能力のもう一つの使い方を教えてあげる」


 落ち着いた様子で話すトリーさん。彼女の余裕な態度は、残る二人が分身体との戦闘中に手出しをしなかったことと関係しているのだろうか。何にせよ、宣言された以上は昨日のように簡単にやられる訳にはいかない。

 左右の分身体が離れ、弧を描きながら音もなく滑るように近付く。そして僕を挟み込むような位置に立つと停止。


「ここまでは、いつもと変わらないように見えるんだけど?」


 僕の問い掛けにもトリーさんは澄まし顔。体で反応を見せたのは、むしろ分身体の方。三体同時に距離を詰め、右側の槍兵から繰り出される突き。けれど集中していれば当たるハズのない速度。後ろに身を傾け回避。同時に想像剣で斬り裂いた。

 次の攻撃は左からの斬り下ろし。槍の回避による軌道を読んだらしく、少し後ろに目掛けている模様。だから背中と腹に力を込めて急停止。背後を掠めるように通り抜ける剣。回避されたと気付いた瞬間に、もう一方の刃を突き出そうとした相手。しかし、時すでに遅し。動いた瞬間に僕の左肘が腹部を直撃。

 消滅した二体目の背後から迫る水平斬り。先ほどは力を込めて止めた仰け反りを、今度は重力に従って受け入れる。目の前を通る剣を見送ると、地面に背中が着く直前に正面の彼を左足で蹴り上げた。右足一本でバランスを取り、起きるために後ろに飛ぶ。




 空中で消える三体目を確認しつつ、視線をトリーさんへと戻す。距離を空けたことで、上方の相手が消滅したことまで見えた。何故か流れる景色が全てゆっくりと映る。なのに突如として視界から消えた小柄な少女の姿。刹那、背後から漂う不穏な気配。マズい。

 空中だということも忘れ、後ろに想像剣を振った。緩やかに流れる景色の中で、赤色のビームの刃とは別物の緑の閃光が走る。僕の太刀筋から素早く逃れ、自身の攻撃を行おうとする小さな稲妻。昨日とは違い微かにでも動きが見えるのは、彼我速度差が埋まったということなのだろう。けれど、今のままだと対処のしようなんてない。


「分身体を出した後、減少したあの子たちの数に応じて一瞬だけ身体能力が高まるの」


 時間にすればきっとコンマ一秒に満たない攻防。光の速度を超えた閃光は、僕の喉元へ手に持つ緑を押し当てた。


「前まではここまでの能力ではなかったんだけどね」


 ナイフと共に遠退く仄かな甘い花の香り。漸く視認できたトリーさんの顔は、戸惑いと喜びが半々といった様子。


「第一戦終了。やはり凄まじい成長具合だ。これなら少し勝率も上がるだろう」


 遠くから聞こえた心地よい響き。試合終了を告げると共に、僕の緊張感まで一瞬にして解してみせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ