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原初の星  作者: 煌煌
第二十九話 二人の心の光
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二人の心の光

 夕食を終えるとキハと浴場へ。とりとめのない話をしながら汗を流した。もう少し一人で浮かんでいたいと言う彼を残し、先に外へ出た僕。湯船の熱が伝わる脱衣場とは違い、青い暖簾の先には冷たい廊下が待つ。


「あっ。レン。私も今、出たところなんだ。だから部屋まで一緒に帰ろう」


 赤い暖簾の横にもたれ待っていたパールの姿に、刹那的に熱を帯びる冷えきった廊下。体温との差で彼女の体からうっすら立ち上る湯気は、僕の気持ちを連れて天に昇る。


「えっ。うん、そうしよう」


 二人の体から昇る湯気の濃さの違いが待ち時間の長さを表す。だから、もしかして僕が出てくるのを待っていたのでは。なんて一瞬聞こうとしたけど、思い止まった。

 僕たちの部屋は、他の五人と違って二階にあるのだと言う。キハとセイラちゃんの部屋の前を通ると、すぐ横には女の子三人に用意された寝室。二人用よりも枚数の多い障子戸から、中の広さも窺える。

 広間から出て右手には温泉。すぐ左手には二階への階段が続く。上階に足を踏み入れると、上から押される感覚が増した。隣を歩くパールは、眉を下げて心配顔。だが体の負荷は重みを倍加。立っているのも辛い状態に。


「キッチンは下に移さないとな。二階の圧は一階の十倍。女の子たちには辛いだろう」


 僕を襲う圧に納得のいく数字を示しつつ、何事もないように彼女は定員五名ほどの台所を指す。そして上からの力を感じさせることなく歩を進め、二人の部屋の前で振り向く。

 返事をする余裕を持たない僕を待つパールは、彼女との距離が縮む度に眉を上げる。


「お待たせ。まだ辛いけど、少しは慣れた」


 空元気。本当はまだ別の星にいるみたいな気分。けれど僕のためにパールが用意したのなら、耐えてみせなければ。


「実はレンと私の部屋には、更に強い圧が」


 言い難そうな彼女の表情が、僕たちを待つ空間への不安を大きくさせる。

 パールが戸を横に開く。畳が敷かれた室内には、茶色い木目調の机があるだけ。しかし奥の襖の先には空が広がり、一つだけ煌めく月が部屋の中に光を差す。

 僕を見つめながら後ろ歩きで部屋に入ったパール。意を決して腕を伸ばすと、何者かに叩き付けられたような感覚が襲う。情けないが匍匐前進のテイで進む。すると鼻を満たすイグサの香り。穏やかな匂いに癒されながら窓辺に佇む女神を目指す。

 パールの足元に辿り着くと、彼女のイチゴの香りも下に漂っていた模様。僕の体を軽くすると、持ち主の元へと導く。


「えっ。流石にこんなに早く立てるとは思わなかった。外の数百倍は体に負荷が掛かっているというのに。本当に凄い」


 彼女の褒め言葉が効いたのか。立っているだけならなんとかなりそう。だけど息を吸うのも無理矢理といった状況に、僕の体は警告を鳴らし続ける。


「ここからだと流石にカラルは見えないな。私と原初の星が装置から抜け、その装置さえトパーズに壊された。願い事を叶える役目を担うのは装置から各所に送られたエネルギーだけ。あと三日持てば良い方だろうな」


 鳴り響く警報の種類が変わった。パールの物憂げな表情に、体からは無限の力が湧く。話すことなど不可能だと思っていたのが嘘のように、心からは彼女に送る言葉を運ぶ。


「だったら、三日でトパーズを倒せるくらい強くなるよ。パールを守るってことは、君の大切なモノも守ってこそだからね」


 役目を終えた喉は再び警報を鳴らす。だがパールの嬉し気な表情に、警報はすぐに祝福の鐘へと変わる。すると一つ思い付いた。


「この島に装置を作れないかな? もしものときの備えのバリアも一緒に」


 確か以前、装置を作るのは可能だと言っていたような。なら一時凌ぎに使うだけの機械なら用意できるんじゃないか。


「私の力を全て原初の星に移し、装置を再建すれば。或いは可能かもしれない。だけど」


 明るさを取り戻したパールの顔が翳る。


「そうなると私には戦う力も残されないな。トパーズを倒すまでは、まだ力を失うわけには。それに。願い事を叶える力をなくして、ただの女になったら、私は誰になるんだ」


 今まで培ってきたモノ。神として世界中の人々の幸せを守る役目。パールにとって一番大切なのは、星の未来なのだろうか。

 だとしても、僕は。


「パールが力を失くしても、ずっと僕の隣にいて欲しい。願い事を叶える力なんて持ってなくても、君は僕の彼女。それに。世界平和だって一緒に叶える約束じゃないか」


 僕の気持ち、言葉や姿が、彼女の目に格好よく映ったかは確認のしようもない。もしかするとパールの両肩に置いた手の震えが気になり、話が入って来なかったかも。

 なんて心配は必要なかった模様。


「神としての能力を失ってもレンのお嫁さんにしてくれるのか。ならさっさとトパーズを倒さないとな」


 差し込む光も見えなくなるような笑顔は、パールの能力がもたらしているのではない。力を失ったとしてもなくならない、彼女の心が作り出す輝きなのだから。


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