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原初の星  作者: 煌煌
第二十九話 二人の心の光
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温泉にて

 広間の扉を開けると目の前には玄関。右手に長い廊下が続き、端に着くまでに小さめの部屋が二つ。曲がり角まで来ると、左手の壁にある窓へ目を遣りつつ右に曲がる。すると奥に赤い暖簾。近付くともう一つ青い暖簾の掛かった入り口が見えた。

 左側に部屋があるのは、目の前の赤と青の暖簾が掛かっている二ヶ所のみ。僕はパールの言葉通り、右手の部屋の中に進む。

 脱衣カゴが二つ置いてあり、曇った硝子戸で仕切られた先にはもう一部屋ある様子。


「どこからどう見ても風呂場だよね。途中の部屋といい、ここになら住めそうだなぁ」


 服を脱いで扉を開けると、予想通りの風呂場。しかしパール特製の旅館とあって浴槽は大きく、僕とキハの二人で泳いでもまだまだ余裕がありそう。シャワーで先に汗を流し、見た瞬間から楽しみにしていた湯に浸かる。

 足を入れた時には熱く感じたが、我慢して肩まで沈めた頃には全身を襲う程よい刺激に変化していた。人の手で直接疲れを解されるようなイメージが浮かぶ。気付かぬ内に疲労が蓄積されていたのか、立っている分の力も湯船へと溶け込む。

 おそらく使っているお湯もパールの魔法。意識せずとも顔だけが水面を漂う。女神の愛が体を包み、疲れと共に気も遠退く。




 次に気付いた時。目の前にあったのはキハの顔。死んだのではないかと心配するような表情を向けられ、思わず吹き出した。


「笑い事じゃないぞ。話し掛けたって反応もなく浮かんでるから、溺れたんじゃないかって心配したってのに」


 心配から不満へ。キハの表情が変わると、笑ったことに対して罪悪感が沸く。


「ごめんごめん。心配かけたね。けど、ただお湯が気持ちよくて寝てただけなんだ」


 僕の簡単な謝罪でキハの表情は緩む。考えなくても彼が本気で怒っていないことくらい分かる。足を湯船の底に着け、溶けた意識を呼び戻す。力を込めて体を起こすと、キハが前から手を引く。


「ほら。三十分後に外に集合だってさ。それまでは自由時間らしいけど、寝られるほどの余裕はないんじゃないか」


 キハの言う通り。だったら久し振りに親友との二人きりの時間を楽しむとしよう。


「そうだね。また寝たら起きられないかも。けど心地よい波が僕を拐おうとするぅ」


 寝ようとしていないのに気付いているキハは、先ほどとは違い余裕綽々。今度は一緒に湯船に浮かぶ。


「パールちゃんが困るようなことなんて絶対しないクセに。けどさ。さっきの鬼ごっこで改めて思ったんだけど。レンは随分と遠くにいったんだなって」


 右で浮くキハに視線を送る。右目は湯船に沈み、天井を眺める彼を捉えられるのは左目だけ。なんだか儚げな顔に見えるのは、立ち上る湯気のせいだろうか。


「いや、どこにも行ってないって。今だって隣で浮かんでるでしょ」


 初めて見るキハの顔に、おちゃらけた返ししか浮かばない僕。答えになっていないのは分かっているのに、正しい言葉が出ない。


「まぁ。そうなんだけどな。けど俺たちが束になっても瞬殺されただけのフレアさんとかにも勝てたんだろ?」


 僕の勝利を一番喜んでくれていたのはキハだったのに、何故今さら。


「なんとかね。無我夢中だったからもう一度倒せるかって言われても、自信はないよ」


 何よりトパーズの存在が頭に浮かび、僕が自信家になることを許しはしない。


「俺は、今のレンならきっと昨日より上手く戦えると思う。けどまぁ、そう思ってるなら今よりもっと強くなって、パールちゃんを守れる男にならないとな。俺は俺でセイラ一人は意地でも守れるようになるけどな」


 普通、男同士の友情を深める会話って草原とかで寝転んでするようなイメージ。だけど僕たちを取り巻く状況は、常識の範疇を飛び越している。なら、湯船に浮かびながら話すのもいいのだろう。


「それはそれでセイラちゃんが聞いたら怒りそうだけどね。けど。僕だってパールのことを守り抜くって誓ったんだ。誰にも負けたりしないさ」


 右手を握り、軽くキハを小突く。今が駄目でも明日にはもっと強くなる。僕と彼の誓いを拳に合わせて。


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