特別な午後
「レン君。そして彼女さん。本当に敵を撃退してみせてくれるとは。実に見事だ」
ゴランさんの言葉で気付いたが、パールの紹介をしていなかった。きちんと紹介しておいた方が良いだろう。だけど今は何よりも大切なことがある。
「けれど倒した敵がいないんです。少し目を離した隙に消えていて」
僕たちの後ろから近寄ってきたゴランさんなら、消えた瞬間を見ていたかもしれない。
「君たちがイチャついてる間に消えたよ。急に姿を消したように思える」
透明化する装置を使ったのか。いや、僕の知らない方法があるのかも。見ていた人ですら分からないのなら、僕には推理のしようもない。
「奴等が現れたのも突然だった。役所から火の手が上がっていると通報を受けて、外に出た我々の目の前にいきなり現れたのだ」
透明化。もしくは転送装置。突然現れたと聞いてすぐ思い付いた二択。パールなら両方作り出せる物だろう。しかし彼女は知らないと言っていたし。誰かが自力で作ったのか?
「疲れているところ悪いが、役所での件を詳しく聞きたい。良ければ取調室で説明願えんかな?」
拒否する理由はない。僕も一つ気になることがあるから。確かに色々と起きて疲れてはいるが。
「レン。ちょっといいか」
警察署に入る直前にパールに呼び止められた。
「もしも私のことを聞かれても機械だとは言うな。内通者の可能性だってあるからな。役所で偶然出会ったと言ってくれ」
偶然出会ったと言う割にはイチャついてるような。けれど彼女の言う通り。嘘を吐く必要はないだろうが、パールのことは最重要秘密だ。簡単に教えてはいけない。
「分かった。ゴランさんなら大丈夫かな?」
僕の質問に微笑みながら頷く彼女。ゴランさんは父さんが警察に入る前から副署長を勤めているらしい。スパイだとしたら気長すぎる。
取調室に移動した僕たち。ゴランさんも同席して聴取が始まった。ゴランさんの他に警察の人がもう一人。
「自分はフレア・ディス曹長であります。今回のご活躍、感動しました。少しでもレンさんとお話ししたく、同席を嘆願したのです」
暑苦しい。いや、情熱的な男性警官。両手で僕の右手を握って、目を輝かせて鼻息を荒くしている彼。緑色の髪が刺々しく跳ねている。しかし、褒められて嫌な気はしない。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。そういえば役所は無事でしょうか? さっき襲ってきた敵を倒してすぐに逃げて来たんで、他にも敵がいたら機械が奪われるのでは」
もしも壊されても、問題ないことは知っているが。彼女の城だという装置が無事なことに越したことはない。
「うむ。役所に部隊を向かわせたが、機械の部屋の入り口が閉じられているそうだ。君の母上が解除するまで誰も入れないだろうさ」
なら今日は家に帰っても誰もいないか。父さんは警邏で帰れないだろうし。
「では、今度は我々が君に話を聞く番だな。何があったのか詳しく教えてくれ」
時計を見ると午後九時。僕も今日中には帰れそうにない。




