炎の真実
落下してから十分。心配そうなイオンさんの声を、ゴーグルが拾う。
「レンさん? ご無事ですか?」
並の通信機なら雑音にまみれているような環境。しかしパール特製の品は、イオンさんの背後にいるであろうアグルさんの声までもクリアに伝える。何だか二人の心配そうな顔すら浮かぶような。
「うん。こっちは全員無事だよ。けどパールが疲れて寝てるから、朝になってから戻ろうと思う。二人は先に戻ってても良いから」
本当はまだ痛いほどの胸の高鳴りが続いている。トリーさんがフレアの話を始めたのも自分を落ち着けようとしたのかもしれない。
だけど崖の上のイオンさんたちを心配させても仕方のないこと。トリーさんも納得した表情で頷いているし、今は強がりを言う。
「分かりました。取り敢えず私たちはセイラさんたちの元に向かうことにします」
二人との通信は切れ、また三人の時間。
昨日。いや、日付が変わっているし一昨日だろうか。とにかくたった一日前なら気兼ねなく過ごせたであろう時間。しかし今の僕らを包む空気は、軽くない。
「両親がトパーズに消されて。私もアイツに復讐しようとしたの。なのに目の前にアイツが現れた時、私は怖くて動けなかった。何もできずに捕まって、勝手に変な力を植え付けられて。意味も分からず軍隊に入れられた」
重みを増した谷底の風は、トリーさんと僕を押し潰す。遠くを見つめながら話す彼女の目には、想像剣に照らされて輝く一筋の涙。
だが一呼吸置いた後で彼女の表情は一転。
「そのあと直ぐに隊長。ううん。フレアさんと出会えたの。トパーズからも何不自由ない暮らしを約束された彼。なのに自身の正義のためにあの女の操り人形になることを拒み、何の取り柄もない私を助け出した。最初から私の能力の価値を知ってたのかもしれない。だとしても、彼と弟のヴァンだけが私のことを一人の人間として扱ってくれたの」
僕を横目で見ながら話すトリーさんの表情は穏やか。フレアのことを本当にヒーローのように思っていたのだろうな。なんて考えると、悪いことをしたなんて感じてはいけないのに、何だか少しだけ胸が痛む。
「だから。私もアナタもアイツに借りがあるワケ。こんなトコでへこたれてる暇はない」
完全に顔を僕へと向けたトリーさん。眉と目を近付け、改めて決意を示す。
元通りの友達に戻れたとは思わない。僕も彼女も、仲間たちも。一人一人感じるコトがあるだろう。けど全員に共通する敵がいる。たった一つの繋がりだけど、昨日までよりも確かな絆が刻まれたように思う。
「明日からの訓練。トリーさんも手伝って。そしてゴランさんやフレアの仇を取ろう」
少し前の僕なら出せなかった言葉。だけど今は大切なコトのために拘りは捨てた。全員で力を合わせて、トパーズを討つ。
「私にできることなら何でもする。もう何もできない女の子では。いたくないから」